
2026年日本酒dancyu「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集では、dancyuを長年支えてくれている酒のプロや愛飲家の皆様に、個人的な推し酒をジャンルレスに聞いてみました。いずれも「ぜひ飲んでみて!」と推薦者が熱く語ってしまうチャーミングな酒ばかり。今回は、dancyu編集長・藤岡の偏愛酒、茨城県の「森嶋」をご紹介します。
初めて「森嶋」を飲んだのは2022年の春、とある居酒屋でした。一口飲んでハッとしたことを覚えています。きれいで飲みやすいイマドキな酒のようでいて、何かが刺さる、気になる――。隕石のような小石をぽつんと配したモダンなラベルもミステリアスでした。一体どんなコンセプトで造っているんだろう?でも当時は茨城で地酒「富士大観」を醸す森島酒造の新銘柄ということ以外、詳細はわかりませんでした。
気になっていた森島酒造に迫ることができたのは翌年の暮れでした。本誌2024年3月号「王道の日本酒」特集で取材に伺うことになったのです。「なぜ小石のラベルなんですか?」。前年来の疑問をぶつけると、蔵元杜氏の森嶋正一郎さんは「これは東日本大震災で倒壊した、蔵の石塀のかけらなんです」と教えてくれました。2011年、震災で蔵が半壊し、森嶋さんはこのまま廃業するか再起を懸けるか選択を迫られます。そのときにフツフツとわいてきたのが「思い切り自分らしい酒で勝負したい」という思い。それから試行錯誤を重ねること8年、満を持して2019年に完成したのが新ブランド「森嶋」でした。「ラベルの石片に込めたのは『あの日の決意を忘れない』、そして『日本酒業界に一石を投じたい』という思いです」。
ではどんなふうに一石を投じるのか。「芸術に触れたときに心が洗われる。気になる絵を観たときに立ち止まってしみじみ見つめてしまう。そんな酒を造りたい」と森嶋さんは言います。強いインパクトや旨味があるわけではなく、すっとはかなく消えていく。でも消えたその透明感や美しさの余韻を追いかけて、つい酒杯を重ねてしまう。そんな酒が理想だと。
すごいなと思いました。何も知らずに飲んだときの第一印象、そのまま。確かに私は、何気ないのに何か気になり、もう少し、もう少しとつい引き込まれてしまったのです。飲めばわかる、酒質で語る。かっこいい酒です。


文=藤岡郷子 撮影=三浦英絵、大志摩 徹