心ふるえる酒2026
【人に教えたくなる酒】時代を超えて愛される、大定番酒の安心感「越乃寒梅」「八海山」「久保田」「天狗舞」

【人に教えたくなる酒】時代を超えて愛される、大定番酒の安心感「越乃寒梅」「八海山」「久保田」「天狗舞」

2026年日本酒dancyu「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集では、dancyuを長年支えてくれている酒のプロや愛飲家の皆様に、個人的な推し酒をジャンルレスに聞いてみました。いずれも「ぜひ飲んでみて!」と推薦者が熱く語ってしまうチャーミングな酒ばかり。今回は、山内史子さん(紀行作家)の偏愛酒、「越乃寒梅」「八海山」「久保田」「天狗舞」をご紹介します。

大定番酒の安心感たるや!

ふらり入った酒場で、その名を目にしてほっとする酒がある。長い付き合いのある夜の友だ。たとえば、新潟の「越乃寒梅」。“幻の酒”ともいわれた、希少な一本が届いたときの父の笑顔が記憶に残る。脚光を浴びる扉を開いたのは酒米の使用量が限られていた戦後、「ならば思いきりいい酒を」と87%の規制を踏み越え、80%まで磨いた米で酒を醸した蔵の心意気。甘口が主流の当時、きれいな飲み口やキレの良さはすぐに受け入れられなかったが、酒質に魅了された酒販店の尽力を得て1960年代にうねりが生まれた。

新潟の銘酒が流れを牽引した1980年代、「魚沼に来たらこれ!」と、日本酒通の先輩が一升瓶から茶碗に注いでくれたのは「八海山」だ。山菜料理と合わせてすいすい進む酒は、締めの塩むすびにも自然に寄り添った。こちらもごく早い時期から淡麗かつ上質な酒造りを徹底した結果、噂が広がり品薄に。やがて「いい酒を日常に」との思いから、品質を保ちながら量産体制を整える改革が図られたが、その礎には地道な企業努力があったという。

東京の洒落た焼鳥店で「旨い酒なんだよ」と友人が熱く語ったのは、1985年登場の吟醸酒「久保田 千寿」。穏やかな香りと口当たり、喉ごしの良さが際立ち、塩、タレともに鶏の旨味が映えた。その後に続くシリーズと併せて広く支持を得た背景には、濃い味を欲する汗をかく労働に代わりオフィスでの仕事が増え、呑んべえの嗜好が多様化していく、社会のニーズを読んだ蔵の先見性があった。

“昭和の酒”と語り合う喜び

山廃初体験。その深みある味わいに惚れたのは、石川の「天狗舞」だ。寒ブリとの融合により、金沢の居酒屋でとろけた甘美も忘れがたい。蔵では1970年代から吟醸酒造りに挑み、全国新酒鑑評会での度重なる金賞受賞で注目を浴びた後、1983年に山廃を世に送り出す。杜氏の中三郎さんをはじめ、全国の酒の造り手に世間が関心を抱くようになる転機も生んだ。

いずれの酒も今なお、「いい酒だなあ」と思う。時代を超えて、進化も遂げていた。越乃寒梅はほんのりふくよかさを増し、八海山は端正な米の存在感に唸る。久保田は奥ゆかしい華やぎとふくらみを有し、天狗舞はやわらぎを感じつつ奥行きは変わらず。

皆様にもぜひ、昭和の寵児とあらためて向き合っていただきたい。ついつい2杯目へと手がのびれば、多くの人の心を奪い、時代を凌駕したその旨し力をしみじみ実感するはずだ。

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日本酒dancyu vol.3「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集、好評発売中!酒のプロや愛飲家が個人的に惚れ込みつい熱く語ってしまう「人に教えたくなる酒」ほか、2026年に飲んでおくべき日本酒がわかる、とっておきの情報をお届けします。

A4変型判(160頁)
2026年2月5日発売/1,800円(税込)

文:山内史子 撮影:大志摩 徹

山内 史子

山内 史子

青森県出身、紀行作家。一升一斗の「いっとちゃん」と呼ばれる超のんべえ。全都道府県、世界40ヵ国以上を巡り、昼は各地の史跡や物語の舞台に立つ自分に、夜は酒に酔うのが生きがい。著書に「英国ファンタジーをめぐるロンドン散歩」(小学館)など。2025年8月、新刊「青森ほろ酔い旅」(ものの芽舎)を上梓。

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