
“黒いシャインマスカット”と呼ばれる皮ごと食べられるぶどう。糖度は最大25度近くにも及び、その濃厚な甘味は、「まるで蜂蜜」と表現されるほどの逸品だ。
クイーンルージュ、ジュエルマスカット、バイオレットキング、スカーレット・・・次から次へと、シャインマスカットのDNAを引き継ぐ品種が開発されている。中でも、富士の輝は全国のブドウ農家の集まりで 『最も栽培してみたい品種』 に選ばれるほど、高いポテンシャルが認められている。糖度25度に迫る甘さ、1粒25gにもなる極大粒、黒葡萄特有のコク、皮ごと食べられる、種無し、貯蔵にも適している!才能が開花すれば文句のつけようのない凄い品種だ。
ブドウはアントシアニン(着色の元)の含有量が多い品種ほど、果皮は黒色に近づく。富士の輝はアントシアニン含有量がトップクラスだから、黒に近い色になるポテンシャルがある。ブドウは昼間の光合成で生成した糖を使って着色させるが、夜の温度が高いと、ブドウのエネルギー使用量が落ちないため、着色が悪くなる。
それ以前に、適度な日当たり(枝の剪定)、高温乾燥期の適度な灌水、適度な着果数(芽かきや摘芯などの剪定)など、高い栽培技術がなければ、才能を開花させることは不可能だ。ここ数年で災害レベルの気候変動が多発し、高温障害も頻発する。だから、気難しい黒ブドウを立派に育てるには、適切な環境と凄い職人技が必須となる。
北は菅平高原、南は美ヶ原高原と、2,000m級の山々に囲まれる上田市。
夏35度、冬-10度、年間降雨量が1,000mmを下回る乾燥した土地は巨峰の名産地。それが黒ブドウ適作地の証。林健三氏の圃場は標高570m前後。日中33度でも朝は20度ほど、温暖化の影響は限定的だ。この気候と林氏の高い生産技術と黒ブドウへの強い想いがあるから、異能のブドウ 『富士の輝』 のポテンシャルが開花できた。
親のシャインマスカットの魅力に黒ブドウの濃厚な味がプラス。糖度23〜24度。皮ごとアントシアニンのジュースを頂くような満足感がある。凄いブドウなのは間違いない。
文:(株)食文化 萩原章史 写真:八木澤芳彦