
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の平松玄太郎さんが、食いしん坊ゆえに気をつけたい健康について指南してくれるこの連載。今回は、大人にも増えている食物アレルギーについてです。
アレルギー疾患を抱える人が増加中です。日本では国民の少なからずがこの疾患に悩まされており、子供の発症はもちろん、最近では大人になってから急に発症するケースも増えているようです。ナッツ類によるアレルギーの増加も報告されています。
「エビやイカを食べたら、これまで何ともなかったのに全身が痒くなった」「リンゴを食べると、喉が腫れてイガイガする」……これらの症状は食物アレルギーを疑ったほうがいいかもしれません。ではなぜ、アレルギー疾患が起きるのか。人間の体には、外から異物が入ったときにそれを駆逐する機能が備わっており、これを免疫と言います。風邪を引いたときに黄色い痰が増えるのも免疫反応の一部ですし、「熱が出る」のも、その免疫機能を高めるべく身体が体温を上昇させるため。この免疫反応が過剰に出てしまうのがアレルギーなのです。世の中に数多ある物質のどれに過剰反応を示すのかは十人十色です。
とても厄介なことに、ありとあらゆる物質がアレルゲンになり得ます。ちなみに消費者庁の報告では令和6年度の日本人の食物アレルギーの原因物質は表のような順です。
1位:鶏卵
2位:クルミ
3位:牛乳
4位:小麦
5位:落花生
6位:イクラ
7位:カシューナッツ
8位:エビ
9位:キウイ
10位:大豆
11位:マカダミアナッツ
12位:ソバ
エビアレルギー・ソバアレルギーなどは割とよく知られていますが、ナッツ類が多いのは意外かもしれません。この上位12品目で食品アレルギー全体の原因物質の88.5%に達しており、特定原材料として食品表示の“義務”となっている8品目が卵、クルミ、乳、小麦、落花生、エビ、蟹、ソバであるのはこのデータが由来になります。最近ではイクラ、カシューナッツ、キウイ、大豆、マカダミアナッツに関して、特定原材料に準ずるもの(全20品目)として食品表示が“推奨”されるようになりました。
でも、気をつけてください。容器包装された加工食品には表示の義務がありますが、外食やテイクアウトなど飲食店や食品・惣菜店での提供の際は義務や推奨の対象外となっています。
アレルギーを起こしやすいのは卵黄よりも卵白です。卵白に含まれる成分の中には、加熱処理でアレルギーを起こしにくくなるものもありますが、そうでないものもあります。つまり火を通せば大丈夫かどうかは、鶏卵アレルギーをお持ちの方の中でも人によって異なります。また鶏卵アレルギーがなくても、うずらの卵にはアレルギーを起こすという方もいます。
ナッツ類のアレルギーは、2011年以降の12年間で10倍に増えたという報告があります。健康志向が高まり、ナッツ類の消費が激増しているのが最要因と言われています。ナッツ類の中でも最多のアレルゲンはクルミ。パンやお菓子に入っているのは想像がつきやすいのですが、味噌やBBQソース、ドレッシングなどにも含まれていることがあるので、気を付けたいものです。
次は牛乳ですが、一口に牛乳といっても、成分調整牛乳や乳飲料など、種類は多岐に渡ります。これらは加工される段階でアレルゲンが薄まっている可能性も高いですが、完全に除去されているというわけではないので、牛乳アレルギーと診断された人は避けるべきです。また、混同しやすいのが乳糖不耐症。生まれつき、牛乳に含まれる乳糖を分解する酵素を持っていない人がおり、酵素がないと便を固形化することができないので、牛乳を飲むと下痢をしてしまいます。牛乳アレルギーも同じく下痢を起こすこともある病態なので、混同されやすいのですが、乳糖不耐症の場合、アレルギーではないので腹部症状以外が出ることはありません。また、牛乳アレルギーの方には加熱処理をしても効果は薄いとされている一方、乳糖不耐症の方にはホットミルクにすると便が緩くなりにくくなる方もいます。
患者さんからよく「昨日初めて○○を食べたんだけど、ブツブツが出たからアレルギーだと思う」という話を聞くのですが、実は、それは理屈上あり得ません。一度体内に入って、自分にとって「異物」=アレルゲンだと認定されないと、アレルギー症状=過剰な免疫反応は起きないからです。初対面の相手が、好きか嫌いか全くわからないのと同じです。この場合はおそらく、気が付かないうちに一度この物質を取り込んだことがあったのでしょう。鼻から吸い込んだり、皮膚に付くだけでも体内に入ってしまうことがあります。自覚なしに取り込んで「初めて食べたのに」と認識していることはよくあります。
食物アレルギーは、いったん発症すると根治は難しい。耐性化させて症状を軽減するしかなく、原則としてアレルゲン(=アレルギーを発症する食品)をなるべく摂取しないことが基本となります。 ヘタな対処や誤認が元でかえってアレルギー反応がひどくなった、場合によってはアナフィラキシーを引き起こしてしまったなど、恐ろしい結果を招いてしまうこともあるので、検査や医師の正しい診断の下、対処法を仰ぎましょう。後半は、他人ごとではいられない「アナフィラキシー」について触れたいと思います。
埼玉医科大学卒業、同大学総合医療センター 高度救命救急センター所属、同センターにて災害医長を担当。救急・集中治療専門医としてER・ICU・災害医療を生業とする傍ら、訪問診療・産業医・レースドクターなどにも従事。
文:林 律子 写真=PIXTA