
食いしん坊倶楽部メンバーで医師の三浦雅臣さんに教わる体にやさしい食事の話、2回目。今回は「一日のどのタイミングで、なにを食べるか」に注目して、理想的な朝食の摂り方や、どんな食材をいつ摂るとよいかなど、知れば面白い体の話を披露してもらいます!
朝食を摂ることで体内時計がリセットされ、身体のスイッチが入ると第一回でお伝えしましたが、具体的には、起床後2時間以内に朝食を摂るとよいとされています。ちなみに、朝食=BREAK(破る)FAST(断食)と書きますが、絶食の時間をなるべく長く持つとリセット効果が高まるとされています。参考までに、前の食事から約3~4時間以上経つと胃の中の内容物も消化されてなくなりますが、夜遅くに食事を摂ってすぐに寝てしまうと、消化不良のまま朝を迎えることとなり、絶食の効果は薄れてしまいます。
また歯に関して、食事中は口腔内のpH値が下がって酸性となり、表面が溶けてしまう脱灰(だっかい)という現象が起きますが、唾液などの働きによって食後1~2時間ほどでpH値は元に戻り、歯が再生される再石灰化が促されます。夜遅くに食事を摂ってこれまたすぐに寝てしまうと、睡眠中は唾液の量が減るため、歯の再石灰化が促されないままになってしまい、歯にとって非常に悪い環境をつくることになってしまいます。
体内時計の話に戻すと、朝食では、たんぱく質と炭水化物を合わせて摂るのが、体内時計のリセットとスイッチオンに効果的だと言われています。この2つをセットにして摂ることで、体内時計を動かす役割を持つインスリンが分泌しやすくなるんですね。青魚などに多く含まれるDHAなどにも、同様の働きがあります。また、筋肉を増やすためのアミノ酸は夜より朝に摂取した方が、効果的とされています。睡眠時には筋肉の補修などが行われており、そこで消費したアミノ酸を補うという意味でも、朝のタンパク摂取は効果的です。具体的にはごはんに焼き魚、パンに目玉焼きなどが良いと思います。
揚げ物や麺類、バターたっぷりのお菓子などなど。糖質や脂質が多いものを食べたいなら、昼食が絶好のチャンスです。というのも、この時間帯は脂肪をため込みにくいとされているから。第一回で、体内の各器官に備わっている時計細胞に一定のリズムを刻むよう指示を出す“時計遺伝子”があるとお伝えしました。このひとつに、「Bmal1(ビーマルワン)」という脂肪の合成を促進する遺伝子があるのですが、昼間はほとんど働かず、夕方~夜間に活性化して脂肪が合成されるのです。
逆に夕食は、脂質を控えめに。この遺伝子の働きで、脂肪にして身体にため込みやすくなります。食後の血糖値も上がりやすくなり、太りやすくなるので、たとえば米は大麦を混ぜた麦ごはんや玄米ごはんにするなど、食物繊維の多い低GI食品を意識するとよいでしょう。また、遅くとも朝起きてから12時間以内に夕食を摂るのが理想。朝食までの絶食時間も設けられ、翌日以降も良いサイクルで過ごすことができます。
興味深い調査結果をお伝えします。ある研究者が、1998年から2004年までの福島刑務所の男性囚人のうち、2型糖尿病の109人を調査したところ、彼らは刑期中、大幅に代謝改善がみられたということです。インスリン治療を受けていた18人のうち5人、経口血糖降下薬治療を受けていた34人中17人が治療を中止することができたという結果が見られました。
大麦ごはんなどを取り入れ、朝昼晩ごとに望ましい献立を組み、栄養学的にも考えられた健康的な囚人食の効果に加え、定時に起床し、決められた時刻で三食、定められた時間内に食事を摂り、定時に就寝するという規則正しい生活リズムが有益な効果をもたらしたと言えます。
人間の身体に誰しも備わっている体内時計とうまく付き合うことで、健やかな身体づくりはもちろん、食べたいものを無理に我慢することなく効率よくダイエットができるということがわかりました。
いくつになっても、好きなもの・おいしいものを食べ続けるために、まずは少し意識してみてください。次回は「長寿遺伝子」について、お話ししたいと思います!
東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2014年東京大学医学部医学科卒業。2021年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了・卒業。糖尿病や肥満症の研究を専門に、最近では老化や睡眠、味覚についても探究を深める日々。
文:林 律子 写真=iStock.com/hxyume/Kanawa_Studio