“生涯食いしん坊宣言”!食いしん坊ドクターが教える食べる喜びを手放さないための健康戦略
【食いしん坊と時間栄養学①】健やかな体を保つために知っておきたい!食事と体内時計のイイ関係

【食いしん坊と時間栄養学①】健やかな体を保つために知っておきたい!食事と体内時計のイイ関係

同じ食事でも食べる時間帯によって体への影響が違うって知っていましたか?体にやさしい食事の仕方を知れば、健やかに食いしん坊人生を楽しむことができるはず。食いしん坊倶楽部メンバーで医師の三浦雅臣さんに、食事と体内時計にまつわる不思議な関係を教わりました。

食いしん坊が体内時計と上手く付き合うべき理由

みなさん、はじめまして。食いしん坊倶楽部メンバーでもあり、医師をしております三浦雅臣と申します。代謝や糖尿病、肥満症の専門医として日々診療にあたり、最近では老化や味覚、睡眠の研究もおこなっています。人生100年時代と言われる昨今。「食べる」という行為を前向きに、かつ思う存分楽しむために、またおいしく味わうためには、健やかな身体の維持が大切です。そんな、「生涯現役」の食いしん坊でいたいと思う皆さんに向けてのささやかなアドバイスを、興味深いエピソードを交えつつ、健康戦略の側面からお話ししていきたいと思います。

今日は、体内時計と時間栄養学についてお話ししたいと思います。
“クロノタイプ”という言葉があります。人にはそれぞれ体内時計が備わっており、その時計に基づいて一日周期の生活リズムが組まれるとも言えるのですが、その傾向によって、「朝型」か「夜型」か「中間型」かに分けることができます。目覚めの時刻と就寝時刻のちょうど中間あたりの時間帯において、身体機能が最も活発化し、生産性が高まると言われています。さらにはこの体内時計がつくる身体のリズムによって、内臓の働き、つまり吸収・代謝が活発になる時間帯が左右されることもわかってきました。これは、栄養学を体内時計の観点から研究する「時間栄養学」という新しい学問で明らかになったことで、「なにをいつ、どう食べるか」によっても健康が大きく左右されるということです。

「夜型」か「朝型」かは、生まれながらに決まっている!?

実は、自分が朝型か夜型かは、遺伝子レベルである程度決まっています。もちろん年齢や生活環境によっても多少は変化しますが、日本人なら朝型が約30%、中間型が40%、夜型が30%といわれています。本来はこの体内時計に合わせた生活スタイルを送るのが健康の秘訣ですが、現代では「朝型」向きの社会システムになっています。

そのため、夜型の人はどうしても無理をしがちで、平日に寝不足になり、取り戻そうとして休日は遅寝遅起きになる。平日と休日で生活習慣が変わるこの“社会的時差ボケ”が2~3時間にもなると、肥満や喫煙率が上がり、仕事や学業にも影響がでるというデータもあります。

時計のイラスト

「光の刺激」と「食事の刺激」で、体内時計をコントロールせよ!

そこでおすすめしたいのが、毎日決まった時間に起床・就寝し、決まった時間に三食を摂る、つまり「規則正しい生活」を送るということ。人間には体内時計をコントロールする“時計遺伝子”が備わっています。全身の各器官には“時計遺伝子”が組み込まれていて、この遺伝子は各細胞に一定の周期でリズムを刻ませる役割を担っているのですが、この周期が1日約25時間と、地球の1日24時間周期とは微妙にズレています。

そこで毎朝体内時計をリセットし、地球周期に時刻合わせをする機能が備わっているのですが、リセットさせるキーマンが「光の刺激」と「食事の刺激」。つまり、毎朝決まった時間に朝日を浴び、その後決まった時刻に朝食を摂ることで、体内時計を規則正しくリセットすることができるのです。

食事の刺激は、ともすれば光の刺激よりも勝るとも言われています。夕食後から朝食までの「絶食時間」が長ければ長いほどリセット効果も高く(まさに"breakfast=絶食〈fast〉を破る〈break〉"ですね)、栄養素の吸収や代謝、血糖値のコントロールにも健全に作用します。

ちなみに、fastは速いという意味ですが、もともとfastには「しっかり固定する」という意味もあり、そこから派生して、「スピードが固定されている」から”速い”となり、「生活のリズムをしっかり固定して守る」から”絶食”の意味になったそうです。服の留め具のファスナー(fastner)も、同じ語源のようです。

昼夜交代のシフトワーカーは、健康リスクが増加!?

「いつ何を食べると効果的か」については、詳しくは次回ご紹介するとして、起床・就寝・食事の時間を定め、規則正しい生活を送るだけでも随分違ってきます。興味深い調査結果をご紹介しましょう。

ある調査ではフィンランド労働者、米国女性看護師、日本人男性40~59歳を対象にして、昼間常時勤務者、夜間常時勤務者、昼夜交代の不規則勤務者の心臓疾患発症率を比較しました。結果的には、昼夜交代の不規則勤務者のほうが、他の二者に比べて発症率が高いことが分かったのです。そのほか糖尿病の発症も多いと言われています。体内時計がうまく整わないと、コレステロール値や血糖値、血圧のコントロールも不調となり、糖尿病や心臓病のリスクを招いてしまうわけです。

不規則な食事はダイエットの大敵だ

こんな経験はありませんか?食事の時間がままならないほど忙しく、時には一日一食、二食ということも。一日のトータル摂取カロリーも低く、少量しか口にしていないはずなのに、なぜか太ってしまった……実はこれも、時間栄養学的には「あるある」です。決められた時間に三食を摂るほうが、食事の時間が不規則になるよりも不摂生になりにくい=太りにくいと言われているのです。本来は朝食を「食べる刺激」で体内時計がリセットされてスイッチが入り、代謝が上がり、体温も上がって、エネルギーが燃焼されやすい状態になるわけですが、これがなされないと、身体が休息モードのまま目覚めず、脂肪をため込みやすく、基礎代謝が悪い状態になるのです。

ダイエットをするなら、カロリー制限よりも、食べる時間に気を付けたほうが効果的ともいえます。「食べたいのに我慢する」よりも「食べる時間を意識しつつ、食べたいものを食べる」。精神的にも健やかでいられそうですよね。それでは、朝食はいつ摂るとよいでしょうか?積極的に摂りたい、逆に摂らないほうがよい食材は?次回は「いつ何を食べるか」にクローズアップしたいと思います。

教える人

三浦 雅臣 先生

三浦 雅臣 先生

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2014年東京大学医学部医学科卒業。2021年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了・卒業。糖尿病や肥満症の研究を専門に、最近では老化や睡眠、味覚についても探究を深める日々。

文:林 律子 写真=iStock.com/Sasithorn Phuapankasemsuk/Yuliya Pushchenko