
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年夏号では、京都と東京の二拠点生活をする、料理家 ウー・ウェンさんに京都を案内してもらいました。
京都の街中から離れた、閑静な松ケ崎エリアへ。駅から北山通り沿いに10分ほど歩くと、緑色の外観が印象的な「吉田パン工房」が見えてくる。営業は週3日のみ。「週末が待ち遠しくなるパン屋さんです」と、ウーさんはうれしそうに話す。
店主の吉田祐治さんは、20年前から飲食店への卸しを手がけてきたパン職人。今もなお、ホテルやレストランの料理人から絶大な信頼を集める。そんな吉田さんが「より純粋に、自分が焼きたいパンを届けたい」と2018年に店舗を構え、一般客も購入が可能に。「モノだけ流しても伝わらない」と今まで懸命に、飲食関係者とコミュニケーションを深めてきた吉田さん。実店舗では、対面販売を心がけ、スタッフがお客さんとの会話を大切にする。
木棚にはハード系のパンを中心に約10種。カンパーニュであれば石臼挽き粉と、開業以来継ぎ足してきたレーズン酵母が主体。「わが家のサンドイッチの定番はこのカンパーニュ。粉の香りやずっしり感、噛むほどに広がる自然な味わい、すべてが私好みなんです」とウーさんは目を輝かせる。いっぽうでバゲットは、しっかり焼き込んだ色合いが印象的。クラスト(表皮)は薄い氷を割ったようなパリッとした香ばしさ。噛むほどに、しっとりとしたクラムの甘みがじわりと押し寄せるのだ。
木棚の上段に、シナモンロールや、クロワッサンダマンドといった、菓子パンなども揃えるのは「本来、パンは地域に密着していると思うんです。ふらっと買いにこられた近所の方が、ハード系のパンにも興味を持っていただけるような、入口になれば」という思いから。
「余計なものを使わないシンプルな味を残したい」という吉田さんのパンは、朝から多くの客を集めている。
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。最新刊は『最小限の材料でおいしく作る9つのこつ』(大和書房)。
文:船井香緒里 写真:エレファント・タカ