
食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたランチメニューを徹底解剖してお届け。第11回は、東京駅『八重洲 鰻 はし本』の「うな重『は』」です。
「今日は旨い鰻しか食べたくない!」という日は決まって『八重洲 鰻 はし本』。10年以上通っています。「生産者の顔が見える鰻しか出さない」を信条にしていて、鰻の産地やストーリーをしっかり解説することがこのお店の特徴。だから、食べたときに口の中に広がる旨味や景色が明らかに違います。できることなら月に一度は行きたいです。
『八重洲 鰻 はし本』は1947年創業の老舗だ。食通や鰻好きのなかには「都内に鰻の老舗や名店は数多あるが、『はし本』の鰻は身の豊かさと精緻な味わいの一体感が素晴らしく、群を抜く美味しさ」と評価する人もいるほど。
建物の老朽化により2024年10月に現在の場所でリニューアル。格子窓や坪庭、左官仕上げの土壁といった日本の伝統美を受け継いだ設えは、モダンな空気を漂わせながらも、年季の入った看板と絶妙に馴染む。
うな重は「い」4,070円、「ろ」5,280円「は」6,930円の3種類。「は」は鰻が一本半入った贅沢な一品だ。蓋を開ければつやつやと輝く飴色のタレに、よく引き締まった身のふくふくとした見た目にうっとりする。食べる前から心が満たされるほど、圧巻の佇まいだ。
身は厚みがあってふっくらとしていて、それでいてキメが細かくよく引き締まった食感。タレはキレのある甘味で、繊細さと上品さがある。老舗の風格だけでなく、一流の威厳をも感じさせる味わいだ。
それもそのはずで、仕入れているのは水質や餌、水温にこだわり、ていねいに育てた鹿児島県産の鰻。「鹿児島県泰斗商店の横山桂一さんが生産している鰻です」と、四代目店主の橋本正平さん。ブランドだけでなく、身の締まり方や脂のノリ、サイズにまで徹底しているのだ。
この店では、注文後に鰻を捌いてから白焼きにして蒸し、タレにつけて本焼きをする。だから、食べる時に身が新鮮でハリがあり、かつ、ふわふわなのだ。関東流の鰻屋の多くは、白焼きまで済ませておくことで待ち時間を短縮するが、『はし本』では注文後にイチから30~40分時間かけて、美味しさを頂点に引き上げる。本当に旨い鰻しか出さないという老舗の矜持が感じられる。
ちなみに、うな重を注文するとすぐにお新香が出てくるので、待ち時間も苦にはならない。「江戸前の鰻屋では、お新香をつまみながら待つというマナーが粋とされました」と、橋本さん。ビールを飲みながら、奈良漬、大根ときゅうりのぬか漬けを噛み締め、これから食すうな重に思いを馳せる。この時間もまた、たまらないのだ。
文:吉田彩乃 写真:工藤睦子