刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
頭まで旨い!ゴージャスな「金目鯛の干物」に挑戦

頭まで旨い!ゴージャスな「金目鯛の干物」に挑戦

アジやサバ、イカなど、身近な魚で干物の基本を習ってきたこの連載。そろそろ珍しい魚やちょっと値の張る魚を使った応用編にもチャレンジしてみたい!今回、伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんが教えてくれたのは、伊東の特産品でもある金目鯛の干物。干しすぎずジューシーに仕上げるのがコツだ。

高級魚に挑戦!鱗も焼いて香ばしく食べられる金目鯛の干物づくり

アジの開き、塩分濃度と漬け時間のバランス、みりん干し、暑い季節の脱水シート式干物、切り身の冷蔵庫干し、浸透圧の研究、イカの一夜干し、イワシの丸干し……。2023年11月からの1年半をかけて干物の基本をじっくり学んできた。おかげで干物づくりが身近になり、旬の魚をたくさん入手できたときは「頭を取って開いて干そう」なんて気軽に思いついて実行できるようになった。

我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さんは「もう十分に教えたでしょ。そろそろ卒業したら?」的な遠い目をしている。いやいや、僕たちはこれからじゃないですか。今後は応用編、自由な干物づくりで一緒に楽しく美味しく遊びましょう!
「では、ちょっと高級な魚を使って、普段はつくらないような干物をつくってみるのはどうですか?」

金目鯛

内田さんが近所のスーパーで買って来てくれたのは金目鯛。言わずと知れた人気魚種だ。

金目鯛の干物の市販品はよく目にするが、自宅でつくったことはない。高級すぎて恐れ多い気がしてしまうのだ。でも、師匠と一緒ならば思い切りやれる。一尾2,000円もする金目鯛を使って、贅沢な干物づくりに挑戦だ。金目鯛を干物用に開く手順は以下の通り。

1腹を開く

エラ口から包丁を入れて、肛門の先まで切り下げて腹を開く。

腹を開く

2内臓を取り除く

エラをつかんで、尾の方向に引っ張ぱると取りやすい。

内臓を取り除く
内臓を取り除く

3洗う

ハブラシを使って血合いを取る。エラの付け根なども丁寧に洗う。

洗う

4水気を拭き取る

キッチンペーパーで腹の中までしっかり水気を拭き取る。

水気を拭き取る
水気を拭き取る

5頭を落とす

胸ビレを頭側に押さえて、包丁を当て、頭を切り落とす。頭も干物にするので捨てないこと。

頭を落とす
頭を落とす
頭を落とす

6開く

包丁の刃先を使って、腹から尾にガイドラインを入れる。中骨の付け根に包丁を入れ、刃で中骨を感じながら開いていく。2、3回に分けて包丁を入れても構わない。

開く
開く
開く

7頭を割る

頭は食べやすいように縦半分に切り分けておく。

頭を割る

金目鯛には小さい鱗がびっしりと付いている。キレイに取り除くのは一苦労だが、あえて残すのが島源商店流。パリバリに焼けば食べられるという。どんな味わいなのか楽しみだな……。

大宮さん
「島源商店」のスタッフ・鈴木さんのアドバイスを受けながら金目鯛をさばく大宮さん。

塩水に浸けるのは15分間。風が強い日は、たった1時間で干し上がる

浸け時間は魚の大きさと鮮度によって変わるが、今回の金目鯛は塩分濃度8%の塩水で15分間と内田さんが決定。半額で売られていた金目鯛は鮮度が落ちて内臓も溶けかけているので塩が入りやすいと判断したのだろう。

さばいた後
塩水に浸ける

15分経ったら真水で洗い、表面をなでつけて艶を出す。あとは干すだけだ。
干し時間もわずか1時間だった。この日は気温5℃だが風速が16メートルもあり、海沿いで遮るものがない島源商店の屋上は強風といっていい状態。飛ばされる危険性があるぐらいだ。
「乾かすときに最も影響するのは風です。日差しや気温が3としたら、風の影響は7ぐらいですね」

表面をなでつけて艶を出す

実際、1時間で表面のべたつきがなくなり、ほど良い弾力に仕上がった。内田さんはむしろ干し過ぎに注意と教えてくれた。
「内部の水分を残して、ふっくらとジューシーに仕上げたいものです。干し過ぎるとペラペラの干物になってしまいます」

干し終わり

鱗が香ばしく、皮は旨味が強く、身はフワッフワ!

いよいよ焼いて食べよう。内田さんによれば、金目鯛の干物を焼くときは「焼き過ぎかな」と思うぐらいがちょうどいいらしい。干すときと逆だ。特に鱗がある皮目はちょっと焦げるまで焼いて豪快に食べられるようにしたい。

焼く

焼き立てを口に入れてバクッと噛むと、焼けた鱗が香ばしくて、皮は旨味が強く、身はフワッフワ。15分間しか浸けていないのに塩気もしっかりと感じる。

「旨い! 皮の脂で身を揚げる感じですね」
釣師でグルメなカメラマンの牧田さんがオシャレな感想を述べている。地魚を褒められて内田さんも嬉しそうだが、伊豆の特産である金目鯛の実力はこんなものではないらしい。
「夏場に下田漁港で揚がる、脂ののった金目鯛を食べに来てください。今回のが100点だとしたら、旬の金目(鯛)は150点です」

僕が下手にさばいた金目鯛は開いた中骨の上に身がかなり残ってしまった。しかし、その部分は干すとよく乾いて柔らかいせんべいのような食感。骨の下には塩が入りにくいものだが、僕の「骨の上の残り身」は塩が強めに感じられる。結果として、1匹の金目鯛で味の変化を楽しめる干物になった。

大宮冬洋の干物日記
【大宮冬洋の干物日記】金目鯛の“頭の干物”でつくる味噌汁は絶品だった!
○月△日 
金目鯛の頭を食べずに捨てる人はほとんどいないと思う。頬肉などは本体の身以上に繊細で美味しいからだ。僕は目の周りをほじってチュルンと食べるのが好きだ。焼いても煮てもいいし、あら汁も良い。

頭を干したらどんな味になるのだろう。内田さんに「頭の干物」をつくってもらい、焼きと味噌汁で食べてみた。焼きのほうは普通の塩焼きとの違いがよくわからなかった(同じぐらい旨かった)が、驚いたのは味噌汁。だしがよく出ていて、それを絡めた身は二倍旨いのだ。つくり方は、頭の干物にさっと熱湯をかけて臭みを抜いてから鍋に入れ、昆布、水を加えて火にかける。沸いたら酒少々を注いで軽く煮込み、味噌を溶けば完成。干物の塩気があるので、味噌は少なめで良い。
「干して無駄な水分を抜いたことで、魚の臭みがすっかり消えていますね」
内田さんも満足そうな表情で味噌汁をすすっている。臭みが抜けて旨味は凝縮した金目鯛のあら(干物)をたっぷり使った汁。酒飲みの友人が遊びに来たときに締めで出してあげたい。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。