
食いしん坊倶楽部のLINEチャットグループ「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたメニューを徹底解剖してお届け。第8回は、有楽町『三亀』の「逸品料理三品」です。
とにかく本当に美味しい定食を食べたい日はこちらへ。昼の定食は、お刺身、焼物、煮物の中から好きなものを選べて、ご飯、味噌汁、香の物、小鉢、果物が付きます。おかずの数も一品、二品、三品と自分で決められます。三品だと3,200円。この値段を聞くと高いと感じるかもしれませんが、もう、どうしても旨いランチしか食べたくない日は迷わず三品。先日は、ブリの刺身、サワラの西京焼き、肉豆腐でした。行くと必ずご飯を3杯おかわりしてしまいます(笑)
山手線「有楽町駅」で、銀座らしい、風情ある老舗の和御膳を食べたいと思ったら、是非とも思い出してほしいのが、1947年創業の割烹『三亀』の昼の定食だ。
食いしん坊倶楽部の推薦者、ネルソンさんのコメントにもあったように昼の定食は刺身、焼物、煮物のうち好きなおかずを選ぶことができる。価格は一品で1,800円、二品2,500円、三品全ての場合は 3,200円。いずれもご飯、味噌汁、漬物、小鉢、果物が付いている。
「季節を食べていただくのが日本料理です」
と、店主の南條勲夫さん。『三亀』を訪れたのは、桜が咲き始めた3月後半のある日。この日のおかずはメジマグロの刺身、メダイの西京焼、鰊と茄子の煮物の三品だった。南條さんは続ける。
「鰊は昔から春告魚(はるつげうお)とも言いますからね。だから今日の煮物に入れています」
メインのおかずではないが、この日の小鉢にあったフキも春に旬を迎える日本の伝統野菜。一口食べてみると、シャクシャクとした歯触りが心地いい。そして、硬すぎずやわらかすぎず、心の底から美味しいと思える食感に仕立てているのが素晴らしい。噛むほどに口の中で香る鰹出汁の風味もまた上品。実はこの小鉢にこそ匠の技が詰まっているのではないか、と感じさせられる。
メインのおかず三品の旨さも感動的だ。刺身は身がキュッと引き締まって、程よく脂がのっている。この脂がまた清らかで、新鮮なうちにきちんと下処理を施したことがきちんと伝わってくるのだ。煮物も然り。焼き魚は味が豊かで焼いた味噌の香ばしい香りがたまらない。煮物は、鰹出汁が鰊や茄子の旨みと見事に調和している。一品につきご飯一杯食べられそうなほど。ネルソンさんの言うとおり、確かにこれは三杯必要だ。
すべての料理が素晴らしいが、もっともこの店の歴史を感じさせたのは糠漬けだ。まろやかな発酵の香りは、一朝一夕で出せるものではない。なんでも、創業以来(つまり約80年!)受け継いできた糠床を今も木樽で管理しているという。
「連休に入るときには木樽から一回糠床を取り出して冷蔵庫で保管し、樽はきれいに洗って屋上で干すんです。いかにも手間暇かけているかのように話してしまっているけれど、日本料理の世界では当たり前のこと。季節の食材を使うこと、丁寧に出汁をとることもすべて料理の基本。この店だけが特別、というわけではないんです」
と、朗らかな笑顔で南條さんは語る。しかし、その表情とは対照的に、言葉の一つひとつに朴訥とした職人の魂が宿っている。当たり前のことをひたすら真面目にやっているだけと南條さんは言うが、そこに歴史が掛け合わさると、唯一無二の価値が生まれる。そんな気がしませんか、と僭越ながら言ってみると、南條さんは照れたような笑みを見せながらこう答えた。
「確かに、そうかもしれませんね。銀座の街とお客様とともに築いてきたこの店の歴史は、かけがえのないものですから」
文:吉田彩乃 写真:竹之内祐幸