
この数年、東京の町焼肉が劇的に進化している。今回ご紹介するのは、食いしん坊倶楽部LINEオープンチャット「焼肉部」はっけぃさんからの推薦店、明大前の「焼肉ソウル苑」です。
ロースターの上でじゅうじゅうと肉が灼ける焼肉店で、凍らせたジョッキで生ビールが供されたら理屈抜きにうれしい。そんなのは問答無用だ。
京王線の明大前駅の改札からすずらん通りへと抜けて徒歩1分。知る人ぞ知るハンドメイドギターの名店「花村楽器」の少し手前に、創業50年を迎える焼肉店「ソウル苑」がある。
dancyu食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャットの分科会「焼肉部」メンバーのはっけぃさんからのおすすめ店だ。
推薦文にもあるように、名物は「極ネギタンサンド」。厚切りのUSタンをいなり寿司のように開いて、ネギみじんをぎゅうぎゅうに詰め込んだ一皿だ。
ただし1人前は6切れ。2名で食べるには全体のバランスが取りづらい。さてどうするか……と悩んでいたら、オーナーの清水直樹さんが「ほとんどの皿はハーフ盛りにもできますが、お好み五点盛りはどうでしょう?」と切り出した。
好きな五点の肉を選べるセットで各2枚7,150円、3枚10,450円、4枚13,750円とこれはオトク感満点!しかも選べる5点の候補に驚いた。看板メニューの「極ネギタンサンド」のほか、和牛のザブトン、イチボ、ランプ、和牛のハラミやサガリなどの希少な肉も盛り込まれている。
国産牛のタンを切り出した「特選牛タン塩」(薄切りor厚切り)に至っては、薄切りと厚切りの両方を選んでもいいという。なんという慈悲深さ……。ダライ・ラマか!
ご厚意に甘えて遠慮なしに肉を選ぶ。まず極ネギタンサンド。特選中タン塩は、薄切りと厚切り、あとは和牛ハラミに和牛タテバラという5種を選択した。
タテバラという名前は最近の焼肉店ではあまり見ないが、ざっくり言うと特上カルビ。「これぞ焼肉!」という郷愁と官能をかき立てられる部位で、肉もサシも甘く濃厚な味わいが特徴だ。
それに事前情報で仕入れていた分厚い和牛肉のセット「特選王道三点盛り」も注文。まずは合計8種の肉で様子を見ることに。
肉だけではいけない。まず肉の前に気まぐれキムチ(菜の花)にキムチ盛り合わせ、ムンチュ(サラダ)とおつまみ茹でタンで、キンキンの生ビールをグイッと飲る。
「ジョッキを凍らせるのは、冷蔵設備を入れ替えた数年前からですね、空きジョッキの回収と洗浄にも力を入れているので、生ビールはたいてい凍ったジョッキでお出しできます」(オーナーの清水さん)
迎えた客の数だけ、細やかなサービスが積み上げられる。それが老舗だ。
ビールが2杯めに差し掛かる頃、「お好み五点盛り」が木の板に盛られてやってきた。さすがの老舗、いまどき焼肉店でも取り合いになる、和牛のハラミや国産牛のタンがこともなげな顔をして鎮座している。
まずはさらりと特選中タン塩から。薄切りは片面に深い焼き色をつけて、裏側は軽く炙る。厚切りは両面にバリッとした焼き目をつけながら、内側まで熱を加え、弾力を引き出していく。
手元の調味用の仕切り皿は、レモン塩、わさび、バルサミコソース。もちろんおなじみの焼肉のタレの用意もあるが、タイプの異なる酸や刺激で客の好みを全方位的にカバーする。
そしていよいよ、シグネチャーの極ネギタンサンド。パンパンに詰め込まれたネギみじんを蒸し焼きにしつつ、こぼれないよう添えられたスプーンで押さえて返すのが常道……だけど焼けたねぎの香ばしさや、生の辛味だって捨てがたい。
まずは詰め込まれたネギみじんを少し皿に取り置き、牛タンは両面にがっつり焼き目をつける。その後、ロースターで焦がしネギを作って香ばしさをタンに纏わせていく。蒸されて甘やかに変貌したネギみじん、直火で炙ったネギの香ばしさ、生のシャクッとした清涼感というネギのトリプルコンボだ。
タンの表面に深い焼き色がつく頃、極ネギサンドは内部のネギみじんが蒸されてちょうどよい加減になる。あとは残りのネギで清涼感を調整する。
そんな折に登場した「特選王道三点盛り」(ザブトン、カイノミ、イチボ)。こちらはステーキが3枚提供されたかのようなボリューム感(なんと合計200g!)。分厚い肉の両面に焼き目を塗り重ねるよう、時々休ませながら焼いていく。
タテバラやハラミも薄くなく、それでいて厚すぎず。最近、和牛のハラミがある店では厚切りばかりを注文していたが、7mmくらいのハラミの食感もまた心地いい。表裏をガッと焼き込んで一気に仕上げるライブ感が焼肉の楽しさと奥深さを再認識させてくれる。
焼肉というリレー競技の最終走者は客という焼き手だ。焼いて休ませ、休ませて焼いて。
いい肉を焼かせてくれる老舗の懐で、僕たち焼肉好きの肉焼きは鍛えられる。また今日も肉が好きになった。
文・写真:松浦達也