
食いしん坊倶楽部のLINEチャットグループ「山手線!本気の昼飯マップ」で、メンバーから寄せられたメニューを深掘りしてお届け。第3回は、大塚「やっぱりインディア」の「やっぱりスペシャルセット」です。
「この店で私が好きなのはバターチキンカレー。ランチセットのナンをチーズクルチャ(チーズナン)に変更するのがお気に入り。ライスもつくのでお腹がぱんぱんになるほどボリューム満点で、たくさん食べたい時にぴったりのお店です」
JR「大塚駅」といえば真っ先に思い浮かぶのは、創業60年以上を誇るおにぎり屋「ぼんご」だろう。カウンターに座り、具たっぷりのふっくらした特大おにぎりを頬張る幸せは何ものにもかえがたい。大塚のランチは「ぼんご」一択、なんて思う人も多いはず。が、しかし! そんな食いしん坊に覚えておいていただきたい。実は大塚はスパイスタウンなのだということを。
大塚駅南口から歩いて2分。小さな飲食店がひしめきあう道を抜けると、アジアのスパイスを豊富に取り揃えるスーパーマーケットが見えてくる。その向かいの建物の2階に店を構えるのが、インド料理店「やっぱりインディア」だ。
ランチメニューには「日替わりカレーセット」900円や「二色カレーセット」1,000円などが並ぶが、目を引くのは「やっぱりスペシャルセット」1,600円。なんと本日のカレー3種とナン、ライス、骨なしチキンティッカ2個、シークカバブ、パーパドにデザートまでつく、その名の通りスペシャルなセットである。せっかく来たからには、『やっぱりインディア』の料理を堪能したい。そんな思いから「やっぱりスペシャルセット」を注文。ナンは、食いしん坊倶楽部の推薦者、Yumikoさんお気に入りのチーズクルチャ(チーズナン)にプラス100円で変更した。
ランチカレーの種類は日替わりだ。
「今日はポークチリキーマカレー(辛口)とサグチキンカレー(中辛)、クリーミーエビカレー(甘口)がおすすめ。いろんな種類のカレーを食べられるうえに、辛さもいろいろでバランスがいいでしょ」
と、店主のスレンダ・モハンさん。
まずは甘口のクリーミーエビカレーを一口。お、おいしい! ココナッツミルクやバター、生クリームがきいたマイルドな味わいの中に、クミンシードやマスタードシード、カスリメティといった幾重ものスパイスが香る。東京都内には星の数ほどのインドカレー屋があるが、それらと一線を画す風格のある味わいに感服した。それもそのはず、スレンダさんは母国・インドで五つ星ホテルのシェフを務めていたという。
ほうれん草を使ったサグチキンカレーは、コリアンダーやクミンが渾然一体となり、ほのかな清涼感が魅力的。ポークチリキーマカレーは、唐辛子の鮮烈な辛さの中にスターアニスやカルダモンの爽やかに香る。どのカレーを食べてもスパイス使いが巧みで、たまらない。
そんなカレーに負けず劣らずの存在感を放つのが、ふかふかのチーズクルチャ。手でちぎると、とろ〜りとチーズが溶け出し、なんとも食欲をそそる。一口食べてみるとチーズからほのかにニンニクが香り、このニンニクがフックとなってカレーと見事に一体となるのである。そしてチキンティッカやシシカバブといった肉料理は、炭火で焼いているので香ばしい。まるでディナーのコース料理を食べているかのような贅沢な組み合わせだ。
お店の雰囲気も、料理の価格も、気軽に入れる街場のカレーの装いでありながら、味わいのレベルはトップクラス。そんなギャップが魅力の『やっぱりインディア』は、モハン兄弟の夢が詰まったインド料理屋だ。
店主であり兄のスレンダさんは、インドの五つ星ホテルで働いた経歴が評価され、1994年にインドカレーの人気店・銀座『グルガオン』の立ち上げシェフとして来日。その後、京橋『ダバインディア』にも勤務した。
そんな兄を追いかけて、1998年に弟のラムさんも来日。『ダバインディア』で働いた後、三軒茶屋『シバカリーワラ』の立ち上げシェフとして活躍した。
都内屈指のインドカレーの名店で研鑽を積んだモハン兄弟が目標にしていたのは、自分たちの店を開くこと。それも、日本人に北インド料理の魅力を伝える本格派の料理店だった。念願かなって大塚に『やっぱりインディア』をオープンさせたのが2017年。今では、カレー好きなら一度は訪れたことのある有名店へと成長した。なんといってもランチの量はボリューム満点で、その気前の良さに親しみが湧く。こんなにおいしくて、こんなにたっぷり食べられて、それでこの価格でいいんですか? と確かめたくなるほどだ。心ゆくまでインドカレーを食べたい日には、まず『やっぱりインディア』のことを思い出すことだろう。
文:吉田彩乃 写真:竹之内祐幸