刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
大人気!「とろサバ」のみりん干しにチャレンジ

大人気!「とろサバ」のみりん干しにチャレンジ

今回伝授してもらったのは、伊東の人気干物店「島源商店」の看板商品の一つ、とろサバみりん干し。静岡の人気リゾートホテルの朝食に出され人気を博している一品だ。脂のしっかりのったサバを臭みなく仕上げる秘密は、漬けダレに加える、ある果物にあった!

濃厚でジューシーな看板商品、「とろサバ」のみりん干しをつくろう

無添加天日干しをモットーにする島源商店。その看板商品の一つが“トロさば味醂醤油天日干し干物”。静岡県内の星野リゾートの朝食でも提供され、人気を博している一品だ。

とろサバとはいかにも美味しそうなネーミングだが、とろサバの正式名称はタイセイヨウサバというらしい。北大西洋でノルウェーの漁船が獲ることが多いため「ノルウェーサバ」「ノルサバ」などとも呼ばれ、日本も大量に輸入している。
「マサバやゴマサバとは違う種類です。脂がガッツリあって、ジューシーかつこってり。若かった頃の私なら大好物になっていたでしょう。今はマサバのあっさりした脂のほうが好きですけど」

今日も率直&朗らかな我らが干物師匠の内田清隆さん。トロサバの脂には独特の匂いがある。それを伊豆半島の特産物であるダイダイ(橙)で抑えつつ、みりんと砂糖で味を足したものが「トロサバ味醂醤油天日干し」になるのだ。

慣れると快感!包丁がスパッと入るサバの大名おろし

アジの干物は開きにするが、サバはアジなどより大きいので、三枚おろしにすると良い。
今回は、手早くできる「大名おろし」を教わった。大名おろしとは、シンプルな包丁遣いで中骨を切り離すおろし方で、普通の3枚おろしよりも中骨に身が多く残る“贅沢な”おろし方であることから、その名がついたと言われる。

サバの大名おろし

1頭を落とす

エラに刃先を入れ、頭を切り落とす。

頭を落とす

2尾を切り落とす

尾を切り落とす

3内臓を取り除く

左右の胸ビレの間から包丁を差し込み肛門まで切り目を入れ、内臓をかき出す。

内臓を取り除く
内臓を取り除く

4腹の中を水で洗う

腹の中を水で洗う

5中骨を切り離す

背骨と中骨の上に包丁を滑らせて左右の身を骨から切り離す。サバの骨は固くて、身は柔らかい。慣れてくると、包丁がスパッと入って骨の上を滑り、リズミカルにおろせる。快感だ。

中骨を切り離す
中骨を切り離す
中骨を切り離す
中骨を切り離す

柑橘入りのみりんダレで、脂の臭みを抑える

みりん干しの漬けダレの配合は、「砂糖:醤油:みりん=1:2:0.2」が島源商店の伝統(前回記事も参照)このタレ4.5リットルに対してダイダイを2個入れる。もちろん、家庭ではそんな大量の漬けダレを用意する必要はない。柑橘の量も適当でOK。内田さんによると、柑橘の香りや果汁は魚にはほぼ入らないからだ。家庭では、砂糖50g、醤油100ml、みりん10ml、ダイダイ1/2個くらいがよさそうだ。

「漬けダレにダイダイを加えるのはサバの臭みを消すためです。味は変わりません。甘く仕上げたいならば、タレの砂糖の量を増やしてください。全体的に味を濃くしたいならば、漬けダレを絡めて置く時間を長くしましょう」

柑橘入りのみりんダレで、脂の臭みを抑える

鮮度が良くて脂が多い魚は、浸け時間を長めにする

サバの切り身を漬けダレにさっとくぐらせたら、バットなどに並べて約30分間置く。鮮度がよく脂の多い魚は一般に漬けダレが浸透しにくい。「トロサバは脂が多いので、漬け時間は長めの30分にしています。同じ大きさの魚でも鮮度と脂の量で浸け時間を調整してください」。干す前にもう一度、漬けダレにくぐらせる。

鮮度が良くて脂が多い魚は、浸け時間を長めにする
鮮度が良くて脂が多い魚は、浸け時間を長めにする

干し方も基本的に前回のアジのみりん干しと同じ。干し上がったときに光沢が出るように、干す前に表面をなでてキメを整えてから金網にのせ、干し網の中へ。風が当たりやすいように、網の片側に板などをかませて、少し角度をつけてもいい。天候によるが、干し時間の目安は3~4時間。身を指で押してみて指紋がうっすらつくようになったら、さらに30分ほど干す。身が締まって弾力が出て、押しても指紋が残らなくなったら干し上がりだ。

干す
干す
干し上がり

焼き方もアジのみりん干しと同じ。焼き網をしっかり熱し、身から火を当てて表面をコーティングしながら焼いていく。皮目はお好みで少し焼くだけ。焼いている途中、身の中で脂が沸騰してブシュ!と旨そうな音を立てる。身側を十分に焼いて、皮目は焦げ目をつける程度に仕上げてもらった。

焼く
焼く

とろサバの脂とみりん&砂糖の強い甘味。ロゼワインと合わせたい!

焼き上がったとろサバをすかさず口に入れると、アジのみりん干しよりも明らかに甘い。漬けダレの配合は同じなのだから、とろサバの豊かな脂の甘さなのだろう。骨を取ってある分だけ表面積が大きくなり、身のすき間にも漬けダレがよく浸みていて、最後まで味をしっかり感じながら食べることができた。臭みを全く感じなかったのはダイダイの効果なのだろう。
「ロゼが飲みたい!」

酒好きカメラマン牧田さんが叫んだ。トロサバ味醂醤油天日干しは甘味が強く、脂もしっかりのっているので、厚みのあるロゼワインと合わせたくなったのかもしれない。

家にある柑橘類の半分を漬けダレに使い、もう半分は焼いた干物に搾りかける。そんな楽しみ方をしてみたくなった。

とろサバみりん干し
【大宮冬洋の干物日記】魚の脂と砂糖の甘味は相性よし!?
○月△日
内田師匠から学んだみりん干しを忘れないうちに自宅で実践。近所の魚屋でアジとサバを買って来た。アジ(メアジ)は4匹で300円、サバ(マサバ)は40cm以上あるのに150円。漁師に申し訳なくなるぐらいの値段である。せめて美味しく食べたい。

アジに関しては前回の記事でみりん干し用のさばき方を丁寧に教えてもらった。開いた後で背骨を除去したほうが漬けダレが浸み込みやすいんだったよな……。あれ?やってみると背骨を切り取る作業が難しい。包丁をギコギコやり過ぎて背中に穴が空いてしまったものは三枚おろしに切り替えた。

漬けダレの配合は、内田さんの教え通りに「砂糖:醤油:みりん=1:2:0.2」にした。砂糖50g、醤油100ml、みりん10mlだ。二度漬けして表面をなでてツヤを出し、干し網へ。
三枚おろしにしたサバにもこの漬けダレを使い回せる。いただきもののベルガモットを半個投入。
アジもサバも5時間ほど干したら表面がきっちり乾いて弾力も出た。干し加減がようやくわかってきたと思う。生干しとはいえ、ちゃんと乾かさないと水分が残り過ぎて旨味の凝縮が足りなくなってしまうのだ。

焼きに関しても内田さんが強調していた予熱(記事はこちら)をしっかり入れるようにしたら失敗がなくなった。家庭用の両面コンロで、ひっくり返さずに7分間で程よく焼けた。

しかし、アジのみりん干しはイマイチの味だった。作業工程には問題がないはずなので、脂の少ないメアジだったのが敗因だったのだと思う。というのは、同じようにつくったサバのみりん干しは上手に出来たからだ。脂の旨味と砂糖の甘味は相性が良いのかもしれない。ベルガモットが効いたのか臭みはまったくなかった。

プロは三枚おろしの背骨周りは廃棄する。売り物にならないからだ。でも、家庭ではそんなもったいないことはしない。サバの背骨部分もみりん干しにしたところ、漬けダレに触れる部分が多いため、濃い味に仕上がった。そこで、焼いて身だけほぐしたものをわさび菜のサラダに加えて食べた(写真)。干物を調味料的に使うのも面白いと思った。

撮影:大宮冬洋

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。