食いしん坊倶楽部部長・植野が2023年に“印象に残った”16皿
2023年印象に残った16皿⑪大阪・天満橋「コムドゥロゥ」の"牛筋と小松菜の黒焼きそば"

2023年印象に残った16皿⑪大阪・天満橋「コムドゥロゥ」の"牛筋と小松菜の黒焼きそば"

その料理人は、大阪に戻りひっそりと店を開いていました。しかし、目の前に次々に登場する料理はどれも食材とセンスの穏やかな格闘技。その味わいに唸りながらワインを飲み進め、そして締めは名物の焼きそば……の“大阪バージョン”なのでした。

締めなのに最も濃厚な旨味が押し寄せてくる!

大阪や銀座、赤坂などで腕をふるった宮永久嗣さんという料理人がいます。フレンチをベースに、ワインに素晴らしく合う料理を繰り出し、かと思えば鮮やかに中華鍋をふって香り高い焼きそばをつくるなど、変幻自在の美味のつくり手です。その宮永さんが東京を離れ、大阪に戻って店を開いたという話を聞き、大阪に向かいました。

天満橋の目立たぬ場所にその店はありました。「comme de l'eau」(水のように)と書かれた看板がポツンと光っていて、ガラス張りの店はカフェのようなつくり。ん?本当にここかな?とおそるおそる入ると、宮永さんの変わらぬ笑顔がありました。

久しぶりだし新しい店だし、料理はすべてお任せすると、
「とりあえず、いろいろ出しますので、食べられるところまで食べてください」
この言葉からスタートした料理の数々は、どれも食材の味と組み合わせと火の入れ方などの調理法が相まって、香り高く食感心地よく、余韻も美しい、素敵な味わいでした(しかもワインが進む味)。それは宮永さんが淡々と繰り出す、食材とセンスの穏やかな格闘技のようでした。料理名を告げるわけでもなく、「えーと、次はなにをつくりましょうか」くらいの軽いトーンなのに、ひとつひとつが印象に残る、軽やかで深い料理。

後日、無理やり挙げてもらった料理名がこちら。

蕪のロースト
世羅の山本農園蕪の1時間ロースト
鰆の炙り
明石の浦鰆炙り 山わさびと紅大根
白子の柚子釜
鱈白子の柚釜 蛤餡仕立て
生ハムとイチゴの最中
自家製リコッタとパプリカムースを包んだ生ハムとイチゴの最中
鯛と穴子のギャレット
明石鯛の皮パリと明石の焼き穴子のギャレット
カイエット
柔らかくした豚足、豚耳と塩漬け肩ロース、フォワグラ、香味野菜、燻製ジャガイモを合わせて網脂で包み熟成させたカイエット 豚足スープで炊いたレンズ豆添え
ハラミとキタアカリ
近江牛ハラミと北見の宇野さんのキタアカリ
海苔巻き
青森産鮪尾身の剥がしと筋焼き蛤マグロ節出汁ご飯海苔巻き
生ハムとイチゴの最中

ひとつひとつの料理について延々と話ができるような感じでしたが、中でも“自家製リコッタとパプリカムースを包んだ生ハムとイチゴの最中”は鮮やかな旨味と風味が口の中で広がり、そして一体化して凝縮した美味しさに集約するという逸品。鮮烈な余韻も快感でした。

カイエット

カイエット(網脂で包んで焼いたハンバーグ状の料理)も濃厚で妖艶な旨味が重なり合っているし、宮永さんのスペシャリテのひとつ、“青森産鮪尾身の剥がしと筋焼き蛤マグロ節出汁ご飯海苔巻き”も上質な旨味の重ね着状態。懐かしく嬉しくなる美味しさでした。

これでお腹いっぱいになってはいましたが、しかし、やはり締めにアレを食べたい!
「宮永さん、焼きそばもお願いします!」
東京でも締めによく頼んでいた焼きそばは、塩味であったり、肉や野菜の旨味を引き出すものであったり、軽やかで多彩な美味しさが感動的でした。

やきそば

久しぶりにその感動を味わいたかったのですが。あれ、出てきたのは黒い焼きそば……
「“牛筋と小松菜の黒焼きそば”です。大阪なんで、ちょっと濃い目の味にしました」
確かに、東京では見たことがない佇まい。食べてみると、おお濃いっ!濃いけれど、麺の風味と牛筋の力強い味わいがしっかり感じられて、深い。これでまた酒が呑める……。
久しぶりに味わった料理は、懐かしい軽やかさと驚きの濃さが入り混じったものでした。宮永マジックは健在、いや進化していました。

文・写真:植野広生