久しぶりに訪れた店が、かつてと変わらない雰囲気とサービスで、定番の料理も以前のまま……かと思ったら、味わいがしっかり進化していた、といったことがあると嬉しくなります。フレンチレストランでまさにそんな嬉しさを味わいました。
東京・西麻布にあるフレンチレストラン「ル・ブルギニオン」は2000年に開店して以来、多くの人に愛されている店です。その理由は菊地美升シェフが繰り出す料理、そして楽しく食事をするのにちょうどいい雰囲気、それを醸すサービスのバランスの良さにあると思っています。僕はだいぶご無沙汰していましたが、久しぶりに菊地シェフの料理が食べたくなって伺いました。
店内の穏やかな空気感、サービススタッフの適度に凛として適度にフレンドリーな接客で、久しぶりであることを忘れるような居心地の良さを感じました。料理も軽やかで味わい深く、安心感のある皿が次々と登場します。
“3種のエビのデクリネゾン 赤ピーマンのムースとズッキーニのクーリ”は、エビの心地よい食感と上品な甘味が赤ピーマンとズッキーニの香りが広がるソースによって引き立ちます。
“北海道産白子とホタテのポワレ ラヴィオリ セップ茸のピューレ”は、白子の妖艶な味わいと帆立の旨味が軽やかにまとめられた絶品!
“甘鯛のポワレとモンサンミッシェルのムール貝 サフランソース”は、鱗をサクッと焼いた甘鯛の香ばしさと上質の旨味がムール貝とサフランの香りに包まれてメリハリの効いた美味。
魚介の皿が続くのに、まったくそれを感じさせない味わいのグラデーションもお見事。メインの“フランス・ロゼール産仔羊のロースト”は、香り高い仔羊が絶妙の火入れによって軽やかな旨味に昇華しています。
どれも、素材の味を生かしつつ組み合わせの妙や、香りと食感と温度の軽やかなバランスで楽しませてくれます。
どれも美味しかったのですが、一番感動したのはコースに追加でオーダーした“人参のムース 雲丹とコンソメのジュレ添え”でした。これは菊地シェフのスペシャリテのひとつで、旨味が詰まったコンソメのジュレの下に雲丹と人参の旨味と甘味が隠れている逸品です。本当に久しぶりに食べたのですが、以前と変わらぬ美味しさ。いや以前より旨味が深く、なのに軽やかというバランスがさらに洗練されているような気がしました。
この素晴らしい味はもちろんですが、20年以上、菊地シェフが自分の料理を続けさらに進化していること、スタッフが変わっても店の雰囲気や味わいが変わらないことが、この一皿に集約されているような気がして、美味しいというよりも、嬉しくなったのでした。
文・写真:植野広生