松尾貴史のカレードスコープ
感慨と郷愁が襲ってくる神戸のビーフカレー|松尾貴史のカレードスコープ(58)

感慨と郷愁が襲ってくる神戸のビーフカレー|松尾貴史のカレードスコープ(58)

ずいぶん久しぶりに小学校のころ住んでいた神戸を訪れた松尾貴史さん。地元の味を堪能すべく向かった小さなお店とは――。

値段も味も変わらない

小学校の頃、旧葺合区から、旧生田区にかつてあった、神戸市立神戸小学校まで越境通学をしていた私は、神戸商工貿易センタービルの近くからメインストリート「フラワーロード」を北へ上がり、三宮センター街を抜けて元町駅を越えるルートを毎日通っていた。この辺りに来ると、毎回、説明不能の感慨と郷愁が襲ってくる。

三宮のJR神戸線と阪急神戸線の南側、センター街に面した古い商業ビル、「センタープラザ」の西館地下一階にある小さな店、「サヴォイ」に、祝日の昼時に来てしまった。それは混むだろう、そもそも8席ほどのカウンターだけの店で、私の前には8人ほどの行列ができている。つまり、ちょうど一回転、1人が食事をするほどの時間が入店までにかかると考えていいだろうか。ドリンクメニューはビールだけで、ここでいっぱいやりながらゆっくりする人はまずいないだろうから安心して待つことにした。

行列

程なくして、カウンターの中程に座ると、「ご飯の量は多め、普通、少なめからお選びください」と言われるのみ、ビーフカレー一択なのだ。値段は変わらず700円、何というコストパフォーマンスの良さなのか。その他のメニューは、トッピングの玉子と「ルー多め」で、至ってシンプル。私は2時間前に食事をしたばかりだったので「ライス小」をお願いした。
皿に乗せたライスを示して「増やしたり減らしたりできますが」と聞いてくれる。「あ、そのままで」というまたシンプルなやりとり、しかし提供された皿にはたっぷりのカレーがかかって期待度が増す。「ライス多め、ルー追加」など頼もうものなら、ひたひたに溢れそうなルーをこぼさぬよう、カウンターから皿を受け取る時には細心の注意が必要になる。

カレー
カウンター

今回訪れたのは15年ぶりぐらいだが、前回訪れた時も20年ほど間が空いての訪問だったことを覚えている。つまり、毎回ご無沙汰なのだ。
しかし、カレーとは面白いもので、一口食べれば風味で爆発的にかつての記憶が蘇る。
懐かしい感じの欧風カレーに、ほのかな酸味と抑制の利いたスパイスの個性。まさに神戸の懐かしい味……といえば、旧オリエンタルホテルのレストランにいた料理人たちがかつての味を再現する店もあったが、ここのカレーはまた一方、パラレルでこの地の人々に親しまれ続ける王道だろう。

外観

店舗情報店舗情報

SAVOY(サヴォイ)
  • 【住所】兵庫県神戸市中央区三宮町1‐9‐1 三宮センタープラザ東館 B1F
  • 【電話番号】078‐333‐9457
  • 【営業時間】10:30~15:30 土日祝日は10:30~19:00
  • 【定休日】不定休
  • 【アクセス】JRほか「三宮駅」より5分

文・撮影:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。