ずいぶん久しぶりに小学校のころ住んでいた神戸を訪れた松尾貴史さん。地元の味を堪能すべく向かった小さなお店とは――。
小学校の頃、旧葺合区から、旧生田区にかつてあった、神戸市立神戸小学校まで越境通学をしていた私は、神戸商工貿易センタービルの近くからメインストリート「フラワーロード」を北へ上がり、三宮センター街を抜けて元町駅を越えるルートを毎日通っていた。この辺りに来ると、毎回、説明不能の感慨と郷愁が襲ってくる。
三宮のJR神戸線と阪急神戸線の南側、センター街に面した古い商業ビル、「センタープラザ」の西館地下一階にある小さな店、「サヴォイ」に、祝日の昼時に来てしまった。それは混むだろう、そもそも8席ほどのカウンターだけの店で、私の前には8人ほどの行列ができている。つまり、ちょうど一回転、1人が食事をするほどの時間が入店までにかかると考えていいだろうか。ドリンクメニューはビールだけで、ここでいっぱいやりながらゆっくりする人はまずいないだろうから安心して待つことにした。
程なくして、カウンターの中程に座ると、「ご飯の量は多め、普通、少なめからお選びください」と言われるのみ、ビーフカレー一択なのだ。値段は変わらず700円、何というコストパフォーマンスの良さなのか。その他のメニューは、トッピングの玉子と「ルー多め」で、至ってシンプル。私は2時間前に食事をしたばかりだったので「ライス小」をお願いした。
皿に乗せたライスを示して「増やしたり減らしたりできますが」と聞いてくれる。「あ、そのままで」というまたシンプルなやりとり、しかし提供された皿にはたっぷりのカレーがかかって期待度が増す。「ライス多め、ルー追加」など頼もうものなら、ひたひたに溢れそうなルーをこぼさぬよう、カウンターから皿を受け取る時には細心の注意が必要になる。
今回訪れたのは15年ぶりぐらいだが、前回訪れた時も20年ほど間が空いての訪問だったことを覚えている。つまり、毎回ご無沙汰なのだ。
しかし、カレーとは面白いもので、一口食べれば風味で爆発的にかつての記憶が蘇る。
懐かしい感じの欧風カレーに、ほのかな酸味と抑制の利いたスパイスの個性。まさに神戸の懐かしい味……といえば、旧オリエンタルホテルのレストランにいた料理人たちがかつての味を再現する店もあったが、ここのカレーはまた一方、パラレルでこの地の人々に親しまれ続ける王道だろう。
文・撮影:松尾貴史