アウトドア雑誌『BE-PAL』の沢木拓也さんと、dancyuの植野広生による編集長対談。第3回は、沢木さんが昨年手に入れたアウトドアベースにお邪魔し、焼酎を飲みながら、焚き火と料理についてまったりと語り合います。
植野:昼間は晴れていましたが、日が落ちて少し涼しくなってきましたね。
沢木:これくらいちょっと肌寒いほうが焚き火にはぴったりですね。
植野:そうですね。この連載が始まる前から、いま一番何をしたいですか?と聞かれたら、真っ先に焚き火と答えていたんですよ。なんでこんなに人は焚き火に惹かれるんですかね?
沢木:シンプルに、癒されますよね。ずっとやっていても飽きない。
植野:確かに、半日ぐらいずっと火をいじってぼーっとしているだけで最高ですよね。
沢木:調理をしたり、動物から守ってくれたり、DNAレベルで人間は焚き火を求めるんでしょうね。
植野:火を見て、逃げるか、寄ってくるか。人間と人間以外の動物の差ってそこですよね。というか、すごく気になったんですが、この焚き火台どこのですか?
沢木:ドイツの〈ペトロマックス〉というメーカーの『ファイヤーボウル』というモデルです。焚き火台としても、鉄板としても使える2WAY仕様なんです。
植野:『BE-PAL』では道具を毎号たくさん紹介されていますが、どういう焚き火台を選ぶのがいいんですか?
沢木:目的別で使い分けるのがいいと思いますよ。火を楽しむ用、料理を楽しむ用、いろいろあるので。熱効率をあげるために、空気を循環させるものもありますし、ソロから、ファミリーまでサイズのバリエーションも幅広くあります。
植野:僕みたいに両方楽しみたい人はどうすればいいですか?
沢木:この『ファイヤーボウル』はお薦めです。ゴトクを乗せれば、ダッチオーブンの料理もできます。
植野:それはいい、焚き火でダッチオーブンは完璧ですね。焼いたり、煮たり、蒸したり。
沢木:燻したり!
植野:お~何でもできますね!
沢木:2泊3日とかのキャンプなら、吊るしっぱなしにして燻製ベーコンをつくったり。
植野:それは夢ですね。そして、あっという間に僕らも煙でいい感じの燻製状態になってきましたね。
植野:やっぱ焚き火って、夜の方がきれいですけど、どの時間帯が沢木さんは好きですか?
沢木:今ぐらいですかね。夕方から夜にかけて。あと、個人的に、朝一番に昨日の炭を復活させて、コーヒーや朝食をつくったりする時間の焚き火も好きです。
植野:ちょっと肌寒い中、気持ちいですよね。残ったものでスープつくるとか、パンと目玉焼きとかね。
沢木:それだけでごちそうですよ。
植野:最近の焚き火の傾向ってありますか? 僕なんか、芋をアルミホイルに包んで焚き火に突っ込みたくなっちゃうんですが。
沢木:それは普遍的です。新じゃがとか、新玉ねぎとか。
植野:うわ、いいですね! 新たまねぎ。オリーブオイルをかけてアルミホイルで包んでトロッとなるまで焼くと、外側から2番目のところがたまらなくおいしくなるんですよ。あの2枚目だけをたくさん集めて食べたいぐらい。
沢木:わかります!笑
植野:沢木さんは、いつもこんな感じで焚き火しているんですか?
沢木:そうですね。ここ数年は、もう焚き火をするためにキャンプしています。
植野:天国ですね。焚き火が目的。焚き火って、焚き火自体が、酒のつまみですよね。
しかも、五感で味わえる。火の揺らぎを見る、煙の香りもそう、ぱちぱちという音もそう。つまみをつくろうと思っていろいろ準備してきたんですけど、あれ、つまみいらないんじゃないか!? っていうぐらい五感が満たされています。
沢木:木を燃やすだけという行為なのに、焚き火を見ながら、何もせずに酒を飲むって、夜景のきれいなバーよりも個人的には癒されます。純粋な、ピュアな癒しですね。
植野:確かにそうですね。目線が自然なのもいいですよね。
沢木:そうなんですよ。上からでも下からでもないフラットな視点。そして、きれいな心になる。
植野:笑 ちなみに、この薪は何材ですか?
沢木:これは福島県産のナラ材ですね。広葉樹なので火持ちしますが、火付けしにくいので、最初、スギなどの針葉樹で火をつけてから広葉樹にシフトしていくのがいい流れかなと思います。
植野:へぇ~そうなんですね。こういうプリミティブな熱源を扱える人って、すごくたくましいですよね。焚き火での調理は、ちゃんと面倒を見てあげないとすぐに失敗してしまう。面倒だけど、どの面倒が楽しい。人として必要なものが焚き火に詰まっていると思うんです。
沢木:いきなり深い話になりましたね!
植野:これは人生哲学連載なんで!笑
植野:何か、焼酎に合うつまみをつくりますかね。
沢木:待ってました! 楽しみです!
植野:僕なりに、アウトドアのつまみにはいくつかルールがあって。1つは、当たり前ですが、簡単にできること。2つ目は、そこにある材料でつくること。そして、特に大事なのが、肉と魚を使わないこと。
沢木:え……使わないんですか?
植野:だいたいメインで肉や魚を食べますよね。メインも肉で、つまみも同じく肉だと、どうしても疲れてしまうので。
沢木:そういうことですね、なるほど。
植野:まず、砕いたバナナチップスとナッツ、バターを入れて火にかけます。分量はお好みです。今日はたまたまバナナチップですけど、ポテチでもなんでもいいです。
沢木:このナッツは、皮付きの素煎りがいいんですか?
植野:よくぞ気づきました。焼酎に合わせるなら、皮付きのほうがいいです。バナナの甘さに、ナッツの皮のほろ苦さを加えることで、奥行きが生まれます。
沢木:へぇ、なるほど~。
植野:ここに、カレー粉を入れることで、甘さ、ほろ苦さ、スパイスの風味が合わさり、立体的な味わいになるんです。バターを入れることで全体が調和します。
沢木:味の想像ができない……!
植野:これは、アウトドアだけでなく、普段の料理にも言えることですが、甘いものと塩っ気のあるもの、甘いものと辛いもの、相反するものを組み合わせると、味が深くなります。あとは、全体的に、軽く塩を振って完成です!
沢木:うわ、早い!4分ぐらいでできた! そしてウマい! 風味がいい!
植野:ポイントとして、カレー粉は2段階で入れることですね。 カレー粉は、火にかけてから時間が経つと、どうしても香りが落ちてしまうので、最後に2段回目の追いカレー粉をすると、香りがベストな状態で食べられます。
沢木:馴染ませのカレーと、フレッシュな香り、という使い分け方ですか?
植野:まさにそうです。とはいえ、アウトドアなので、あれこれ気にしすぎないほうが楽しいです。
沢木:このスピード感でつくれたら、キャンプ場のヒーローですね。
植野:笑 実はそれが狙いです。
沢木:いやぁ、バナナとカレー粉が、こんなにも合うとは……。
植野:ちなみに、チップじゃなく、生のバナナをカットして、バターで焼いて、カレー粉をかけるだけでもおいしいですよ。
沢木:まさかっていうぐらい一体感があります。焼酎にもぴったり。
植野:そうなんです、なので料理名は「万能カレー風味チップス」です。
バナナを使えば「そんなバナナ!」になりますが。笑
沢木:笑 これは延々と食べられますね。
植野:もう1つ、キャンプ飯で、自分が大事にしていること。優しいものを入れる。だいたいキャンプに行くと、冷たいものをがぶがぶ飲んで、肉をガツガツと食べて、胃が疲れちゃうんですよね。
沢木:確かに。ちょっとだけ優しいものを途中で食べると、リセットできますよね。
植野:なので、2品目はかなり優しいです。
植野:深めのボウルに、クリームチーズの『kiri』を3ピースと、絹ごし豆腐1パックを入れて、スプーンで混ぜます。そこにオリーブオイルを3まわし程度。ツナ缶を1缶入れてからマヨネーズを10~20gを入れて混ぜ、塩を振って味を整えます。ここにパセリを振ったら完成です!
沢木:早すぎ! (スプーンでひと口)うわ……本当だ、優しい……。
植野:この料理のタイトルは、「酒飲みのための優しいディップ」です。こういう優しさ、キャンプに必要ですよね。ちょっと小腹が空いていれば、バゲットをさっとあぶってからのせてもいいです。さらに、アクセントを効かせたいのであれば、先ほどのナッツを乗せてもOK。
沢木:うわー、この展開は想像していませんでした。
植野:とにかく、自由な発想で料理を楽しむことが大事です。
沢木:オリーブオイルの香りがいいですね。
植野:そうですね。オリーブオイルをちょっと多めに入れるほうが、焼酎に合います。冷奴も、しょうゆをかけるのもいいですが、オリーブオイル、塩、胡椒を振って食べると、香りが引き立って、一気に焼酎との相性が良くなります。
沢木:焼酎もいろいろバリエーションありますが、今日の料理にはどんな焼酎が合いますか?
植野:クセが強すぎる芋焼酎だと喧嘩してしまうので、麦のソーダ割がいいですね。
植野:3品目は、エノキです。
植野:2パックを袋から開け、石づき部分を取り、4cm幅ぐらいでカット。非焙煎のごま油をスキレットにやや多めに入れて、エノキをほぐしながら炒めます。ある程度ほぐれたら、そこに、バターひとかけ入れ、飲んでいる麦焼酎を2回し程度入れます。アルコールが飛んだら、醤油を4回し。最後に塩で味を調整して出来上がりです!
沢木:これもまた早いですね。5分かかってない。
植野:ここの醍醐味は、そのときに飲んでいる酒を入れるということ。日本酒を飲んでいるときは、日本酒を入れる。
沢木:油はごま油がいいんですか?
植野:香りが強いごま油ではなく、非焙煎のごま油がいいです。このつまみは、飲んでいる酒を入れるというのが面白さなので、香りと風味は、酒が際立っているほうがいい。
沢木:なるほど~。
植野:水を入れて煮詰めていくと、即席なめたけができます。
沢木:あまったらパックに入れて、帰ってからのつまみにもなる、ということですね。
植野:そうです!
沢木:うわ、ウマい! 焼酎の香りと味わいが絶妙に残っていて酒が進みますね!
植野:酒を飲みながらつくる即興つまみ、つまり「酒のためのなめたけ」です。これが後にいい思い出にもなるので別名、"アントキのエノキ"ですが。笑
沢木:まさかの闘魂。笑 でもわかるな~。あの時のエノキ食べたいなって、近い将来絶対に思うだろうな~。
焚き火を五感で味わいつつ、エノキをつまみながら、黙々と酒を飲む編集長2人。「いやぁ、今回も飲みすぎましたね」「やっぱり焚き火をしながらつまみをつくるって究極ですね」なんて話しながら夜は更けていきました。アントキ最高だったよなぁと、いつか思い出すことでしょう。“美味しいアウトドア達人”への道は、まだまだ続きます!
Web版のBE-PALでも、両編集長の対談記事を掲載しています。本記事と合わせてご覧ください。
アウトドアフィールド全域が主戦場。キャンプや登山、カヌーにSUPと外遊びが趣味であり仕事。今回お邪魔したセカンドハウスは都心から約1時間。1000坪ほどある広大な敷地で、庭はキャンプし放題。
文:仁田恭介 写真:岡本寿