松尾貴史さんが10年ぶりに訪れた大阪・心斎橋のスリランカカレー店。ほかの飲食店の場所を借りる「間借り」営業の時代から食べていたそうですが、実店舗を構えさらにおいしさが洗練されていたようで――。
現在では、日本中で当たり前のように営まれている「間借りカレー」の店だが、こちらのお店は随分と早くからそのアイデアを取り入れていたと思う。夜の街とも言っていい大阪北新地の雑居ビルにあるバーが、昼間使われていないことに着目したのだ。今では東京の三田で押しも押されもしない名店となった「ゼロワンカレーA.o.D」も、大阪の北浜で間借りカレーとして始まったが、こちらもその双璧だったように思う。
店主は2012年に世界一周の旅に出て22ヶ国を回ったそうだ。そのときにスリランカのカレーに出会ってから心酔し、日本に戻ってから奥さんのお母上(スリランカの方だそう)が作るカレーを食べてさらなる魅力を発見し、日本の良さを融合させた完全オリジンのカレーを完成させたのだという。
今回、「カレーや デッカオ」のスリランカカレーを食べたのはおよそ10年ぶりだろうか。北新地の雑居ビルに入るバーを昼間に間借りしていた頃に2度うかがったきりになっていた。2016年の春に、実店舗を心斎橋あたりに構えられたと噂では聞いていたけれど、ようやく訪問することができた。
到着すると、開店前にはすでに先客が数人、階段の所に並んで待っていた。
新地時代から名作カレーの誉高い存在だったけれど、スリランカカレーはすべて、さらなる名品に洗練されていた。日替わりカレーが6種類もあるのは、日々の研究の賜物なのだろう。
今回は牛すじのカレー、鮪のカレー(レモン風味)を選んで「よくばりスリランカ」のプレートをお願いした。添えられたアチャールは茄子の炒め物、スリランカではカツオのような使われ方をするモルディブフィッシュのカッタサンボル(パラパラとしたふりかけのような混ぜ物)、水菜とココナッツのアチャール、トマトと玉ねぎのフレッシュなサラダ仕立てのアチャール、中央に鮮やかなターメリックライスと陶器の器に入ったチキンカレー、ステンレスの小皿の鮪カレー、プレートの外にもうひとつ小皿の牛すじカレー。いや、欲張りました。
鮪は絶妙の酸味、ほろりと身を崩してグレイビーに絡め、ライスに乗せれば簡単に感動できる旨さ。ローストしたスパイスだろうか、風味が独特でクセになる。
牛すじは、その前向きな臭みを逆手にとって香辛料との化学変化的融合で昇華している。
チキンカレーは中央を行く完成度と毎日でも食べたくなるような心地よさ。
北新地の時に店名の由来を聞いたことがあるのだが、私の記憶が間違っていなければ、ご主人の顔の大きさから来ているのではなかったか。
いや、もっと「大きい顔」をしていい名店だ。
文・撮影:松尾貴史