編集長・植野が2022年に“印象に残った10皿”
2022年印象に残った10皿⑤「小十」の"鮎の焼き物"

2022年印象に残った10皿⑤「小十」の"鮎の焼き物"

和食の楽しみは、季節の食材の旨味を、和食ならではの技でしっかり引き立ててくれること。夏に食べたこの鮎の焼き物は、和食の常識を超越した(?)焼き方で、衝撃的な味わいになっていたのでした。

炭火でじっくり、ぎりぎりまで旨味を凝縮

銀座「小十」は、素晴らしい食材に洗練された技が施され、一皿ごとに驚きが続く割烹です。とはいえ、奇をてらったものや派手なものが出てくるわけではありません。和食の基本を忠実に守り、そのうえで斬新な味わいや楽しい演出で楽しませてくれます。
この日も一皿ごとに歓声が上がる料理が続いたのですが、なかでも衝撃的な美味しさだったのが鮎の焼き物でした。器に笹の葉がしかれ、そこに置かれた鮎は見ただけでもカリッと音がしそうなこんがりとした焼き色に包まれていました。
口に入れると、カリッとした心地よい歯応えの後から、鮎の鮮烈な風味と軽やかな身の旨味が広がります。ふわっとした香りとしっとりとした身の普通の鮎の塩焼きも美味しいのですが、それとはまったく異なる、鮎の身のしっとりとした旨味とそれを包む皮の香ばしさをぎりぎりまで凝縮された異次元の美味しさ。遠火の炭火でじっくり1時間程度焼くという、通常の和食の調理法ではここまで焼かない、まさにギリギリの火入れによる未知の味わいでした。
素材の味を引き立てる和食ですが、それを超越して素材の内面に眠っていたかのような(鮎自身も気付かなかったような?)深い旨味を引き出してくれる技もあるのだと驚きました。

鮎
鱧とじゅんさい
毛蟹のお椀
鰻ご飯

鮎の焼き物だけでなく、鱧とじゅんさいの涼しげな一品、上質な出汁がしみわたる毛蟹のお椀、これもじっくり炭火で焼いた鰻ご飯など、どれも凝縮した旨味が素晴らしかった。

文・写真:植野広生