洋食店の多い浅草でひっそり佇む洋食店のロースカツは、丁寧な仕事が感じられる、ほっとするようなやさしい味わいで。揚げ物なのに、毎日食べたくなるような美味しさは、なぜか「ありがたい」と思うのでした。
浅草ROXに近い繁華街にありながら、ひっそりと佇んでいる洋食店。店内にも穏やかな空気が流れていて、買い物帰りの老夫婦や遊びに来たカップルなどさまざまな客が静かに食事をしています。名物のロースカツライスは、適度な厚さの豚肉と、それをやさしく包む軽やかな衣が一体となり、おだやかな美味しさです。肉や衣が自己主張することなく、強い油の香りを放つこともなく、とても心地良いバランス。そのまま食べるとひたすらやさしい美味しさがふわっと広がります。添えられたケチャップをつけて食べると、甘味と酸味のコクが加わり上質な洋食のカツレツの香りが漂います。ソースを少しかけるとトンカツの強い旨味が感じられます。ケチャップとソースを混ぜて食べれば、ご飯が進みます。本当に食べ飽きることがない、白飯に合うニッポンの洋食です。
洋食は白飯に合うのが特徴ですが、しかし、だからといって味が濃ければいいというものではありません。素材がしっかり感じられて、丁寧な仕事が施されることで、濃いのではなく深い味わいに仕上がります。この店のロースカツレツを食べていると、それを改めて感じます。揚げ物なのに毎日食べたくなる味わい。創業以来約90年、時を重ねることでしか出せない味わいなのかもしれません。「美味しい」のはもちろん、「ありがたい」と思える料理はとても貴重だと思います。
ポタージュスープ、ハンバーグ、オムライスなど、その他のメニューも素朴ながら丁寧な仕事が感じられる深い味わい。毎日通いたい!
文・写真:植野広生