編集長・植野が2022年に“印象に残った10皿”
2022年印象に残った10皿①明石「五半」の"干しだこ"

2022年印象に残った10皿①明石「五半」の"干しだこ"

振り返ってみると、2022年は“干した魚介”の美味しさに改めて目覚めた年だったような気がします。あちこちで、素晴らしい料理(食材)に出会ったためですが、その一つがこれでした……。

噛みしめるほどに深い旨味が広がっていく

兵庫・明石浦には、栄養豊富で流れも速い明石海峡で育ったさまざまな魚介が揚がります(年間100種類以上)。漁船が港に着くと、みんな魚が入った網や箱を持って走って、幼児用プールのような広いいけすに入れ、セリを終えた魚も走って持っていきます。魚がストレスを感じる時間を1秒でも短くしよう、といった心意気なのです(“明石締め”と呼ばれる神経締めも実に丁寧。魚の傷みを最小にして旨さを長持ちさせる素晴らしい技術もあります)。

市場

そんな素晴らしい“魚の町”明石には何度も訪れていますが、そのたびにいつも驚きの美味しさに出会います。
今回出会ったのは「小料理 五半」“干しだこ”です。お品書きがなく、店主がその日揚がった魚によって料理を決める店で、その日も平目やブリやイワシの刺身、焼き物などから締の牡蛎ごはんまで、明石の魚料理が次々に出てきました。どれも素晴らしく美味しかったのですが、食事をするメンバーが揃う前に、「これでもつまんで酒呑んでてください」と出されたのがこれ。ガスコンロの上に網を置き、その上にポンッと干しだこの足を置いただけ。これを炙ってちぎってしゃぶる、実にシンプルな料理(?)なのですが、噛みしめるほどにじわじわと深い旨味が口の中に広がっていつまでも余韻が残る。この余韻を日本酒できゅっと流すと、さらにふくよかな旨味がふわっと浮いてくる。明石の上質で旨味が強いたこを、絶妙な干し具合にして、炙りたてを食べるからこその味わい。実に感動的な味わいでした。

干しだこ

さらに、帰る際に「お土産です」と渡してくれたパックには、たこ飯の上に海苔(明石は海苔も旨い!)がしかれ、梅干し、大根の漬物、つくだ煮が添えられ、そして海苔の上には炙った干しだこが一本。
これをつまみながら帰る新幹線での移動時間も、とても幸せなひとときでした。
(冷めて少し硬くなった干しだこはさらに噛みしめる感動が大きく、酒を呼ぶのでした……)

お土産

写真・文:植野広生