映画やドラマに登場する「あのメニュー」を深掘りする連載。第21回は、この時期にぴったりなクリスマスムービーの名作。聖夜、大きな一軒家で一人きり……さて、何を食べよう?
12月になると観たくなる映画のひとつ、『ホーム・アローン』。クリスマス休暇に、うっかり家に置いてきぼりにされたケビン少年(マコーレー・カルキン)。襲い来る強盗に知恵を絞り立ち向かうケビン君に、ハラハラしたり声援を送ったりしながら、最後にはほんわか心が温まるファミリームービーである。
8歳の少年が、家の中に誰もいないと悟ったときの、はじけっぷりが楽しい。自由を満喫する彼が食べたくなるのは、ふだん禁止されていたものばかり。
いきなり靴も脱がずにベッドの上を飛んだり跳ねたりしながら、袋に入ったポップコーンを食べる。ベッドに着地するたびポップコーンが飛び散って、ママが見たら卒倒しそうな光景だが、ケビンのテンションはさらに上がっていく。「自由だ!」と雄叫びを上げながら、ダイニングテーブルの周りを全速力で駆け回る姿は、野に放たれた小動物のよう。
お次は映画を観ながら、カウチに腰掛けふんぞり返り、ひじ掛けに腕を載せて、ポテトチップスとコーラをサイドテーブルにセッティング。これぞ正しい映画鑑賞法だ。ビデオは暴力シーンだらけのギャング映画。ママから子供はダメと禁じられていた映画を観ながら、兄が大事にしまっていたポテトチップスを勝手に開け、コーラと一緒に食べる。なんという幸せ。
そして極めつけの食べ物が、ケビンの膝上の皿にある。真ん中にアイスクリームとチェリーが山のように盛り上がり、周りにマシュマロがゴロゴロ並ぶ。てっぺんからかけられたたっぷりのチョコレートソース。大好きなお菓子をここぞとばかりに盛りあわせた、ケビン特製のスペシャルデザートだ。
クリスマス用の真っ赤なナプキンを襟元から垂らし、大きなスプーンで、口に入りきらないくらいのアイスクリームを豪快に食べ続ける。台所には空っぽになったチェリーの瓶詰が転がり、マシュマロとチョコレートソースがあちこちに散乱して、泥棒が入ったかのような汚れっぷりだ。しかし彼にとってそんなことはどうでもいい。ちょっと危険な映画を観ながら、好物をいっぺんに味わう行為。そんな背徳感ゆえの甘美な体験を味わい尽くすのだ。
「お菓子を食べて、暴力番組を見てるよ!僕を止めた方がいいよ!」
異国にいる両親に向かって、これみよがしに大声を出してみる。しかし宣言してしまえばもう開き直るしかない。不道徳な行為がもたらす陶酔感に、さらに浸るケビン。
そして家族が帰って来られないまま、一人で迎えることになったクリスマスディナー。一人暮らしに慣れてきたケビンはというと、クリスマスらしく赤いセーターに身を包み、ダイニングテーブルにはレースのテーブルクロス。赤と緑のクリスマスの飾りつけをほどこし、キャンドルを掲げた可愛らしい天使までいる。
そんなフォーマルなテーブルセッティングの真ん中に置かれている料理は、マカロニ・アンド・チーズだ。マカロニを茹で牛乳と塩とチーズを混ぜるだけのシンプルな料理であり、おまけにちょっとジャンクなアメリカンフードである。
真っ白い皿の中に、マカロニとチーズが混ざり合って黄色一色の小山になっている。大きなワイングラスが置かれ、ナイフとフォークもきちんと並べられている。こうなるとふだんは手軽なインスタント食でしかないマカロニ・アンド・チーズも、ちょっとゴージャスなディナーに見えてくるから不思議だ。チーズがマカロニにしっかり絡みつき、濃厚な香りが漂ってきそう。お腹もいっぱいになるに違いない。
ディナーの準備が整うと、ケビンは大人たちを真似て神妙にクリスマスの祈りを捧げる。
「栄養たっぷりな冷凍マカロニ・チーズのディナーと、セール販売に感謝します」
大真面目な表情と子供っぽい祈りの言葉のギャップに笑ってしまう。
クリスマスという最も一人で過ごしたくない特別な季節に、独りぼっちになってしまったのに少しも嘆かず、むしろ自由を謳歌するケビン少年。その明るさが頼もしく、大いに楽しませてくれる。随所に見られる賢さや育ちの良さと、いかにも子供らしい無邪気さ。それらがいい具合に溶け合って、ケビンは永遠に愛されるキャラクターとなり、何度も味わいたくなる名作になった。
文:汲田亜紀子 イラスト:フジマツミキ