「インネパ食堂」で飲む!
インネパ店の「南インド料理」で飲む酒は格別なのだ!──雪が谷大塚「シッダールタパレス」前編

インネパ店の「南インド料理」で飲む酒は格別なのだ!──雪が谷大塚「シッダールタパレス」前編

インネパ店でありながら、メニューには南インド料理がずらり!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第25回目は、昨今人気の南インド料理を食べながら、酒肴としてのポテンシャルの高さを体感してきました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回は、近年見かける「ネパール人が手掛ける南インド料理店」の代表的な一店を訪れました。

魅惑の南インド料理をつまみに、ホッピーをゴクリ!

東急池上線、雪が谷大塚駅。改札を出てすぐの中原街道を3分ほど歩くと、ちょっとシックな佇まいのインネパ店が見えてます。それが今回の飲み処となる「シッダールタパレス」。開店は2019年12月。さっそく中に入ってみましょう。

外観
雪が谷大塚「シッダールタパレス」。同じ池上線沿いの「御嶽山駅」にも支店がある。
黒板メニュー
“骨付きチキンビリヤニ”が名物のようだ。
小林
ここ数年、ネパール人が経営する南インド料理店を、ちょくちょく見かけるようになりました。同店は、そのハシリといえる一店なんです
メニュー
立て看板

メニューを見ると、北インド料理やタイ料理と並んで、南インド料理がずらり。しかもカレー類から、ティファンと呼ばれる軽食類、さらには南インド料理といえばの定食「ミールス」までを揃えるという力の入れよう。さっそく、何品か頼んでみることにします。

最初に到着したのが、カジキマグロをスパイスやハーブと供に炒めた“フィッシュべプドゥ”です。

フィッシュべプドゥ
フィッシュべプドゥ。
小林
べプドゥ(ヴェプル)は「炒める」という意味のテルグー語ですね
田嶋
どこか中華料理にも通じる甘辛い味付け。カジキには脂がよくのっていて、そこにカレーリーフの香りが鮮やかに立っています。風味がくっきりしていてうまいな~。これは飲みたくなる!

たまらんとばかりに小林さんが注文したのは、日本の酒場でおなじみ、ホッピー白のセット。南インド料理を肴にホッピーをあおるという、なんとも斬新な光景です。

小林さん
ホッピー大好き、小林さん。
店内
広々とした店内。
小林
それにしても、南インド料理に多用されるハーブのカレーリーフを、こんなふうに生で料理に添えるのは珍しいですね
編集M
たしかにカレーリーフといえば、テンパリング(※)して使うのが一般的です

※熱した油に通して香り付けする調理技術

小林
この発想は、ある意味でインド料理と“距離”のあるネパール人ならではのアイデアかもしれません。距離があるからこそ、見える景色がある(キリリ)
店長のサプコタさん
店長のサプコタさん。フレッシュなカレーリーフとともにパチリ。
編集M
日本食で、山椒の葉を薬味として添えることがありますが、それを思い出しました
小林
まさにカレーリーフは「ナンヨウザンショウ」という別名もあります
田嶋
それこそ山椒のように、手の平でパンと叩いて香りをブーストさせてもいいかも(笑)

絶妙なローカライズは、“町中華”にも通じる!?

さて、南インド料理といえば、米と豆を発酵させてクレープ状に焼いた“ドーサ”も名物の一つ。メニューを見ると……おお、プレーンドーサやマサラドーサなど、ドーサだけで10種類もあるじゃないですか!その中から、ちょいと珍しい一品を注文。

ほどなくして到着したのは、ドーサにチーズをたっぷり乗せて焼いた“チーズドーサ”でした。添えられたミントチャトニや、豆と野菜のカレー・サンバルと供にいただきます。

チーズドーサ
チーズナン、ならぬ、チーズドーサ! バジルのように見えるトッピングは、カレーリーフ。
田嶋
このドーサは、パリパリというよりモチモチの食感。そしてドーサもチーズもすごいボリュームで味も濃く、インネパ店のチーズナンにも通じる、欲望をわしづかみされるような満たされ方!
編集M
かつて、喫茶店で“ピザパイ”と呼ばれていた頃の、モチモチのピザ生地にも通じる懐かしさがあります。ていうか、これはほぼピザですよね(笑)。だけど、食べてみるとカレーリーフが効いてて、イタリアンと南インド料理がフュージョンしたような新鮮さもある。こりゃワインをいきたくなりますね
小林
インドではこういうモチモチのドーサや、とろけて大きく伸びるようなチーズは、最近は少し出てきたものの一般的ではないので、これもインネパ店ならではのチューンナップなのでしょうね

さらにテーブルには、“チェティナードマトンカレー”が到着。こちらは濃厚でクリーミーなカレーソースで、甘み、辛み、塩み、香りが渾然一体となり強烈な旨味のパンチとなっています。あわせて頼んだデニッシュパン“パロタ”とも合う~。

チェティナードマトンカレー
チェティナードマトンカレー。
小林
カレーリーフにコリアンダーリーフ、さらには刻んだ万能ねぎまでのっているという。“香草の三重奏”がまた面白いですね

こうして、絶妙にローカライズされた南インド料理を肴に、グイグイ飲み進める一同。

編集M
他の店の南インド料理と比べ、すごくとっつきやすく感じます。南インド料理特有のクセが和らげられて、わかりやすくおいしくなっている
田嶋
その点では、町中華にも通じるところもあるのかも。異国のとがった料理を、さまざまなものとフュージョンさせながら、身近な形にアレンジするという。結果、酒がよく進む料理になっているところも似ている!
小林
今後、こうしたネパール人経営の南インド料理店が増えることで、南インド料理がグッと大衆化するかもしれませんね。まさにインネパ店が飛躍的に増えたことで、ナンカレーが非常に身近な存在になったように

インド人や、マニアックな日本人が手掛ける南インド料理店とはまた違った面白さがある、ネパール人経営の南インド料理店。さらにわれわれはこの後、「シッダールタパレス」が持つ“エスニックファミレス”としての大きなポテンシャルを目の当たりにするのでした……。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

シッダールタパレス 雪谷田園調布店
  • 【住所】東京都大田区雪谷大塚町11‐8
  • 【電話番号】03‐6881‐3198
  • 【営業時間】11:00~15:00、17:00~23:00 土日 11:00~~23:00
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】東急池上線「雪が谷大塚駅」より徒歩3分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。