「インネパ食堂」で飲む!
圧巻の大壁画を眺めながら、ディープすぎるネパール飲み!──蒲田「チョウタロ」前編

圧巻の大壁画を眺めながら、ディープすぎるネパール飲み!──蒲田「チョウタロ」前編

蒲田の酒場街に、トリップ気分を味わえるネパール酒場があった?──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第15回目は、都内でも有数の大壁画があるネパール料理店を訪れました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回のお店は、蒲田「チョウタロ」。本格派のネパール料理と酒を堪能できるこの店、楽しみはそれだけじゃないんです。

ビル外観
酒場街の奥にある雑居ビルに地下1階に……。
入口
蒲田「チョウタロ」はあります。

寺院・ジャングル・エベレスト……未知なるネパール壁画の世界

蒲田駅西口から5分ほど歩いたところにある、雑居ビルの地下1階。ドアを開けると、一見、大箱の居酒屋……しかし、店内を見渡すと息をのむ光景が現れます。

店内

ネパールの寺院や田園風景から、果ては宇宙の景色まで、さまざまなモチーフの壁画で埋め尽くされています。エアブラシを駆使した手描きで、独特の味わいがあるんです。

壁画
壁画
壁画
壁画
小林
ここ5~6年でしょうかね、店内にこうした壁画が描かれたインネパ店を、多く見かけるようになったのは。実はネパールの街中には、手描きの味わい深い看板や広告が今も残っていて。そうした絵を描いていたネパール人が、日本のインネパ店の壁画を描いていることが多いようです。ただネパール現地の飲食店の店内では、こうした壁画はほとんど見ないので、日本独自のレストラン文化ではないでしょうか

この素晴らしきネパール壁画を全力で味わうべく、ひとまず料理と酒を頼むとしましょう。まずはネパールつまみといえばの漬け物“ミックスアチャール”と、ネパールのビール“ネパールアイス”で乾杯。アチャールは漬かりが浅めで酸味は穏やかですが、焦がしメティのオイルがいい香り。そして、このビールのグラス!予想外の大きさとパーティー感。そして壁には独特なネパールアート。まだ1杯目なのに、早くもちょっとクラクラしてきました(笑)。

ミックスアチャール
ミックスアチャール。ハイボールにも合います。
謎にデカいグラス
ネパールアイスと、謎にデカいグラス。宇宙!

続いては、ネパール料理店以外ではあまり見ない、ヤギの脳みそ炒め=“ギディフライ”を注文。果たして脳みそのお味は……これが意外なほどクセがなくタンパク。白子にも似た食感とコクがあり、スパイシーで濃い味付けとあわせ、いかにも珍味という感じで酒に合う!

ギディフライ。
ギディフライ。
小林
ここはメニューのほとんどをネパール料理が占める、ネパール料理専門店に近い居酒屋ですね
田嶋
壁画のこの雰囲気の中でディープなネパール料理をつまむのが、またイイですね。それにしても、なぜ日本のインネパ店では、こうした壁画のある店が増えているのでしょう?
小林
インネパ店の数が増え、何か差別化をと考えたオーナーが、絵心のある同胞に頼んで描いてもらっているのでしょう。こうした壁画は比較的、本格的なネパール料理を出す店に多いんです。そのことを踏まえると、日本人向けというより、ネパール人に向けた客寄せアトラクションなのでしょうね
店内

「チョウタロ」という店名に込められた意味とは?

編集M
壁画に描かれている絵の内容には、なにか意味があるんですか?
小林
ネパールの寺院や民家、田園風景など、ネパール人の故郷が描かれていることが圧倒的に多いです。生まれ育った国を後にして日本にやってきた彼らの心象風景を表しているともいえそうです。ただこの店にもあるように、中には日本の風景や、果ては宇宙なんかも描かれ、題材はわりと広いです
田嶋
そうそう。この店も、座敷スペースの壁に富士山が描かれているのが、またなんともイイですね。銭湯のペンキ絵にも通じる風情があって
壁画
小林
噂では、こんなネパール人もいるようです。もともとインネパ店で調理の仕事をしながら、同胞から頼まれてたまに壁画を描いていた。ところがインネパ店から絵の引き合いが多いので、独立して内装会社を興した、という

そんな中、料理がもう一品到着。たっぷりかかったケチャップが見目麗しい“スパイシーオムレツ”です。口に運ぶと、まずは甘さが押し寄せ、その後に青唐辛子の鋭い辛さがやってきて、テンション上がる~。思わず、低音域と高音域が強調された“ドンシャリ”という音楽用語が頭に浮かびます。

スパイシーオムレツ。
スパイシーオムレツ。

さらにはもう一皿。スパイスをまぶして焼いたネパール串焼き“セクワの盛り合わせ”です。塩と少しのスパイスでシンプルながらしっかりと下味が付き、そこに炭焼きのいい香りが加わり、絶好の酒肴へと昇華しています。思わず目の前のグラスをぐいっと干してしまうおいしさです。

セクワの盛り合わせ。
セクワの盛り合わせ。
小林
ちなみに店名の「チョウタロ」には、“休憩所”という意味があります。よくネパールでは、レンガや石垣で囲った大きな菩提樹の根元に座る場所があり、そこにおじいさん・おばあさんをはじめみんなが集って語らう光景が見られます。それが“チョウタロ”です
編集M
「バー とまり木」みたいな感じのネーミングですね(笑)
小林
そして、ここ「チョウタロ」の店内をよく見ると、ちゃんと“チョウタロ”が設置されているんです

よく見ると、店内の正面一番奥には、菩提樹と石垣の絵が描かれています。 さらに近づいて見てみると……なんとその石垣は立体的につくられて、ちゃんと腰掛けられるようになっている!!

チョウタロ
菩提樹の根元の石垣が……。
チョウタロ
座れるように工作してある!

食事をもう一段楽しくしてくれるアートであり、楽しいアトラクションである、ネパール壁画。後編では、そんな“ネパール壁画飲み”の世界へもう一歩、深入りします!

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

チョウタロ
  • 【住所】東京都大田区蒲田5‐21‐13 ペガサスステーションプラザ 地下1階
  • 【電話番号】03‐6428‐7652
  • 【営業時間】11:00~23:00
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】JRほか「蒲田」より徒歩5分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。