近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。
※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。
案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。
訪れたのは、前回に引き続き巣鴨「プルジャダイニング」。店主のプルジャさんが手がけるネパール家庭料理を肴に、さらにディープに「ネパール飲み」を繰り広げていきます。
ここ数年、豚肉料理を扱うネパール料理店が増加中!?
前編では野菜のおいしさを生かしたネパール家庭料理をつまみに、ホッピーやビールなどを飲んできた一同。ドリンクメニューを見るとネパール焼酎“ロキシー”や、ネパールのどぶろく“チャン”なども揃っています。ディープな地酒を飲みながら、次に注文したのは、おなじみのネパール餃子"モモ"。ただ、こちらは他店であまり見ない、豚肉を使った“ポークモモ”です。
- 田嶋
- 皮が肉厚で、あんもみっちり入っていて、食べごたえ十分。くせのないシンプルな味わいで、豚肉の旨味がストレートに感じられます
- 小林
- 前編でも豚肉のスクティを使った野菜炒めを食べましたが、実はネパールで豚肉を食べる民族は、ライ族、リンブー族、マガル族、グルン族など一部の民族に限られます。人数的にマジョリティであるバウン族やチェトリ族は、豚肉を食べる習慣がありません。ネパール料理で有名なタカリ族も、基本的に豚は食べない。だから、ネパールの豚肉料理は、意外とどこでも食べられるわけではないんです
ポークモモ。ゴルベラコアチャールをつけて食べてもおいしい。
- 小林
- 実は私、ネパールの豚肉料理には目がないもので(笑)。ポークカレーはもちろん、豚肉のチョイラ(焼いた肉のスパイス和え)やセクワ(スパイスでマリネした肉を焼いたもの)など、豚肉料理がメニューにあれば、たいてい頼んでしまいます
- 田嶋
- 小林さんとは、プライベートでもネパール料理をご一緒させてもらうことが多いですが、いろんな店で豚肉料理を食べまくっている印象があります。ここ3~4年で豚肉料理を出すネパール料理店がかなり増えた感があるんですが、それも小林さんが豚肉料理を食べてSNSで発信してきたことが、大きく後押ししているのでは?と僕は睨んでいます(笑)
- 小林
- 私が発信したことが影響しているかどうかわかりませんが(笑)、タイ料理や(日本の)居酒屋メニューなど、外国の食文化の影響によってメニューのバリエーションを増やしてきたネパール人たちが、自国内にある豊かな豚食文化の存在に気づき、取り入れていったと見ることができると思います
豚肉談義に花を咲かせているうちに、次なる豚肉料理の“刺客”が到着。こちらは豚ハラミのセクワ。肉は驚くほどやわらかく、ほどよくスパイシー。それに、魅惑の調味料=ティムルコチョップ(ネパール山椒“ティムル”とチリを合わせたもの)をつけて、いただきます。肉とスパイスの躍動感がダイレクトに伝わり、ああ、うまい……。
なぜプルジャダイニングで飲む酒はうまいか
- 編集M
- それにしても、「プルジャダイニング」の料理は家庭料理でありながら、なぜこんなに酒が進むのでしょう? もしやプルジャさんが、大の酒飲みとか?
- 小林
- いえ、プルジャさんはそこまでお酒は飲まないはずです。なぜプルジャさんの料理が酒に合うかというと、「ネパール料理はごはんに合う」という基本に忠実だからだと思うんです。ごはんに合うおかずはどうしたって酒にも合う訳で。これがナンにあうようなカレーだと果たしてすべての酒にドンピシャで合うかは、微妙なところです
- 田嶋
- なるほど、それでこんなに酒がおいしく飲めて、ぐいぐいいってしまうわけですね。実は僕、「プルジャダイニング」に飲みに来ると、なぜか毎回フラフラになって帰るんです。他の店ではそこまで酔うことはめったにないし、この店でもそれほどたくさん飲んでいるつもりはないんですが……
- 小林
- それは単純に、この店の酒が濃いんじゃないですかね(笑)
そんな与太話をしているうちに、さらなる豚肉料理が到着しました。こちらはたけのこと豚肉を、コリアンダーシードなどのスパイスとともに炒めたもの。たけのこも豚肉も絶妙にやわらかく、酒が進みまくります。
たまらずもう1杯おかわりしたくなり、ネパール料理店でも置く店の少ない酒“ジャイカッテ(ジョワイカッテ)”を頼みます。
- 小林
- 米を色づくまで炒り、それを温めた焼酎などの蒸留酒にかけた、高アルコール濃度の酒です。炒った米をかけた時の「ジョワッ」という擬音が、そのまま名前になっています。おそらくは高地に住むタカリ族が、酒で暖をとるために飲んでいたものが発祥でしょう
ジャイカッテ(ネパール語の発音に近いのは“ジョワイカッテ”)。
そのジャイカッテは、強烈なアルコール濃度を感じつつも、米の香ばしさと酒の温かみに包まれ、意外なほどグイグイいけてしまいます。無事にジャイカッテまで到達したおかげで、今日も千鳥足で帰ることになりそうです。
そしてほとぼりが冷めたころ、再びこの酒場に足が向くことでしょう。他のどこにもない「プルジャ料理」と、締めのジャイカッテを味わいに。
案内人
小林真樹さん
インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/
店舗情報
- プルジャダイニング
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- 【住所】東京都豊島区巣鴨1‐34‐4
- 【電話番号】03‐6882‐3013
- 【営業時間】11:00~15:00 17:00~22:30(L.O)
- 【定休日】火曜日
- 【アクセス】JR「巣鴨駅」より4分
田嶋 章博
(ライター、編集者)
1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。