「インネパ食堂」で飲む!
野菜がうまい!至高のネパール家庭料理で飲む──巣鴨「プルジャダイニング」前編

野菜がうまい!至高のネパール家庭料理で飲む──巣鴨「プルジャダイニング」前編

本場のネパール料理なのに、日本人にも懐かしさを感じさせる美味しさ──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第11回目は、巣鴨で異彩を放つネパール料理店を訪ねました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回は、小林さんが「ネパール飲みが好きなら、必ず行ってもらいたい店」と太鼓判を捺す、巣鴨「プルジャダイニング」で食べ&飲みまくります!

外観
巣鴨「プルジャダイニング」

どうして、こんなに野菜の味が濃いのか?

巣鴨駅の改札を出て中山道を渡り、住宅街をしばらく歩くと見えてくるのは、ネパールの国旗と「本場ネパール料理 プルジャダイニング」と書かれた提灯。インネパ飲みの血が騒ぐ外観を眺めつつドアを開けると、「いらっしゃいませ~」と店主・プルジャさんの陽気な声に迎えられます。

提灯
「プルジャダイニング」と書かれた、赤提灯ならぬ黄提灯。
店主のプルジャさん
店主のプルジャさん。

プルジャさんは、人懐っこくてチャーミングなネパール人女性で、来日歴は20年を超えます。

席に着くとすぐに、キンミヤ焼酎のボトルがテーブルに到着。ラベルには、味わい深い似顔絵が描いてあります。

小林
私のキープボトルです(笑)。似顔絵は、プルジャさんが描いてくれたものです
キープボトル

さっそく小林さんはホッピーを注文。田嶋と編集Mは生ビールを頼み、ひとまず乾杯! さて、料理はどうしましょう。

小林
私はいつも、プルジャさんがその時々の旬な食材を使って、多彩な料理をつくってくれる“おまかせ”でお願いしています。他ではなかなか食べられない料理が、いろいろ出てきますよ

そんなわけで、今回も“おまかせ”でお願いすることに。果たして、どんな料理が出てくるのでしょう?

ほどなくして、まずはネパールの漬物“アチャール”の盛り合わせがテーブルにやってきました。

アチャールの盛り合わせ
アチャールの盛り合わせ。

上から時計回りに茄子、柚子、カリフラワーと小魚、ゴーヤ、そして真ん中が、なんと鶏肉を使ったアチャール。

田嶋
すべてが、他のネパール料理店では見たことのないアチャール! 酸っぱかったり、辛かったり、苦かったり、ほのかに甘かったりと、それぞれ味もガラリと違います。これはまるで、アチャールの見本市や~!
編集M
味わいは日本のお惣菜に通じるものがありますが、ほどよくスパイスが効いていて、のっけからこの一皿だけで何杯飲めてしまうのか(笑)

続いて到着したのが、“からし菜と豚スクティ炒め”。スクティは、ネパールのスパイシーな干し肉です。

からし菜と豚スクティ炒め
からし菜と豚スクティ炒め。
小林
これも他店ではそうそう食べられない料理です。豚のスクティ自体が、なかなか珍しいですね。実は私、ネパール料理の中でも、豚肉料理に目がないんです
田嶋
脂のよく乗った豚と、苦味の効いたからし菜の組み合わせが絶妙です。そこにレモンをキュッと絞って食べると、いやあ、たまらん……(笑)。また、野菜の味が濃いですね~

野菜の味が濃い。それにはちゃんと理由があるようです。

プルジャさん
群馬と茨城に農園を持っていて、お店で出す野菜の一部はそこで作っています。青菜やじゃがいも、玉ねぎ、唐辛子とかですね。野菜は水やりを最低限に抑えることで、味が濃くなるんですよ。農薬も一切使っていません。虫に食べられたら、それまでです(笑)。畑では、旬のものしか作りません。旬のものが一番美味しいし、体にいいのでね

家庭の味にして、無二のセンスが光る料理の数々

そんな話を聞いていると、今より野菜の味がずっと濃かったといわれる昔のごはんを食べている気にもなってきます。そうこうするうちにもう1品、“うりとわらびの和え物”が到着。こちらは家庭的なやさしい味わいのなかに、プチッと弾けるコリアンダーシードがさわやかなアクセントに。これも他店では見たことのない料理です。

うりとわらびの和え物
うりとわらびの和え物。
編集M
ここまで食べた料理をとってみても、この店がほかのインネパ店やネパール料理専門店とは一線を画す存在だというのがわかります。小林さんから見て「プルジャダイニング」ならではの魅力って、なんなんでしょう?
小林
まずは純粋な家庭料理であることですね。それも、久しぶりに帰る実家で出てくるような飾らない家庭料理です。他の多くのネパール人は、レストランで家庭料理なんか出してお金が取れるはずないという意識が強いので、ここまで家庭料理のウェイトが高いネパール料理店は、日本はもちろんネパールにもほとんどないと思います
店内
店内
田嶋
(当連載の第1・2回に登場した)大塚「バッティ」のような居酒屋料理は、家庭料理ではないのですか?
小林
「バッティ」は酒場料理なので、純粋な家庭料理とはまた違います。「プルジャダイニング」は、本当に料理上手なお母さんのお家ごはんという感じですね

さらにこの店には、もう一つ大きな特徴があると小林さん言います。

小林
それは、プルジャさんが手がける料理のオリジナリティです。「ネパール料理はこうあるべき」といった既成概念に一切囚われることなく、プルジャさんの頭の中にある故郷の味を、自由に表現する。もし使いたい食材がなければ、自分で作ってしまう。もちろん根っこは間違いなくネパール料理なのですが、それをプルジャさんのセンスで独自の創作料理に昇華している。そういう意味では、この店の料理をカテゴライズするなら、「プルジャ料理」というのがもっともふさわしいと思います

後編では、小林さんの愛するネパールの豚肉料理を、さらに心ゆくまで堪能します。そして、知る人ぞ知るネパールの“禁断の酒”も登場!お楽しみに。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

プルジャダイニング
  • 【住所】東京都豊島区巣鴨1‐34‐4
  • 【電話番号】03‐6882‐3013
  • 【営業時間】11:00~15:00 17:00~22:30(L.O)
  • 【定休日】火曜日
  • 【アクセス】JR「巣鴨駅」より4分

文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。