2022年5月号の特集テーマは「本気の昼めしレシピ」です。旅行作家の石田ゆうすけさんは、世界一周旅行で訪れた新疆ウイグル自治区で、お気に入りの麺料理に出会いました。無類の麺好きである石田さんを虜にしたその味とは――。
麺が好きで世界でいろんな麺を食べたが、一番のお気に入りは何かと考えれば、中国新疆ウイグル自治区の「ラグメン」かなと思う。讃岐うどんによく似たコシの強い麺に羊肉トマト野菜炒めをぶっかけた料理だ。
これが主食かと思うぐらいウイグルの人々はよく食べる。このあたりは自転車で旅をすると何日も砂漠が続くのだが、たまに現れる村の食堂にはラグメンしかないことが多かった。村人もみんなラグメンを食べている。僕も毎日昼夜ラグメンばかり食べる。飽きそうなものだがこれが飽きない。ラグメンを食べたそばからまたラグメンが食べたくなっている。
店頭では料理人が麺を打っている。生地を左右に長くのばして折り畳み、それをさらにのばして畳む。2本が4本、4本が8本、8本が16本、生地はみるみる細くなる。うどんぐらいの細さになると、作業台の上にバンと打ち付ける。コシを出すためか。あちこちの食堂からバン、バン、という威勢のいい音が聞こえてくる。手の中の残りわずかな生地――麺状ではなく塊になっている――を包丁で切ると、麺がハラハラとほどけ、大鍋の湯に投入される。ゆでたあと、水でしめ、羊肉トマト野菜炒めをかける。つるつるシコシコの麺に羊肉やトマトのコクが絡み合って、麺を手繰る手が止まらなくなる。
世界の旅を終えて7年ぶりに日本に帰ったある日、冷凍うどんのパッケージに“レンチン”が推奨されているのを見て、おや?と思った。以前はゆでてもどす方法しか書かれていなかった気がするが……。
メーカーによると、ゆでるよりレンチンのほうが余分な水分が入らないからより理想的なコシが出るらしい。それならそのうどんでラグメンをつくってみたらどうだろう。
やってみると大当たり。かなり現地の味に近いものになったと思うし、ラグメンを食べたことのない妻にも大好評、2歳の娘もすごい勢いで食べ、我が家の定番昼食となった。冷凍庫にラム肉を常備し、いつでも食べられるようにしている。
そういえば、かつてある雑誌がラグメンのレシピを載せたとき、「羊肉がなければ豚肉でも」と紹介し、翌月謝罪記事を載せるということがあった。イスラムの戒律に厳しいウイグルの料理に豚肉が使われることはありえず、配慮が足りなかったという理由からだが、味の面だけを考えても羊肉は必須で、豚肉で代用すれば全く別の料理になり、魅力がすっかり失われるように思う。
裏を返せば、羊肉の旨さを再確認できる料理だと思うので、羊好きの方はぜひ、またそうでない方もよかったら試してみてください。使うのはフライパンひとつ。僕の記憶をもとにアレンジした超簡単なレシピだけど、おいしいですよ。
文・写真:石田ゆうすけ