世界の○○~記憶に残る異国の一皿~
思わず笑ってしまうほど旨い「サムギョプサル」|世界の韓国料理⑦

思わず笑ってしまうほど旨い「サムギョプサル」|世界の韓国料理⑦

2022年4月号の特集テーマは「韓国日常料理」です。旅行作家の石田ゆうすけさんは、グルメ取材で韓国を訪れた際に、韓国料理の奥深さに触れました。600年の歴史を持つというそのすごさとは――。

受け継がれ進化する韓国料理

韓国のグルメ取材、という垂涎物の仕事が入り、ソウルに飛んだ。
韓食の基本は膳の上にご飯とたくさんのおかずがのる「飯床(パンサン)」だそう。究極は“五汁十二菜”の宮廷料理だ。エビをふんわり焼いたもの、鯛をほんのり煮たもの、キノコをはんなり、鰻をやんわり、鮑をほんわり、肉をなんなり、もうええわ。どの味付けも精進料理のように淡い。

600年の歴史を持つとされる宮廷料理は、王族の健康のために陰陽五行説(宇宙の生成から人体の仕組みまであらゆる現象を説明するのに用いられた中国の哲理)に基づく薬食同源が実践されているそうで、五味(甘、辛、酸、苦、塩)や五色(赤・緑・黄・白・黒)など細かな定義があり、神経が配られる。円形の器に色とりどりの野菜や肉を並べ、それらの具を巻く皮を中央に置いた「九節板(クジョルパン)」はその象徴だ。
韓国の友人の家を訪ねたときも、家庭料理でこの九節板が出され、陰陽五行の文化思想が隅々まで行き渡り、かつ現代まで連綿と続いていることに感心してしまった。

宮廷料理

モダンコリアンにも強い感銘を受けた。ミシュランの星付きレストランのコースにもやはり飯床があり、厳選素材の料理が少しずつ盛り付けされ、たくさん並べられる。シェフ曰く「韓国料理の特徴は発酵調味料と合わせダレのヤンニョム」だそうで、それらを西洋料理に合わせ、複雑な味を演出するのだとか。

和と洋のフュージョンは何度となく味わってきたが、醤油や味噌など和の調味料よりひときわ個性が強いと思えるヤンニョムが西洋料理と調和するのだろうか。腹の中でそう疑いながら“フォアグラのキムチ巻き”を食べてみる。キムチのシャキシャキした歯触りに、ムースのようなふわっとした食感。韓国味噌や梅酒に漬けたフォアグラのコクと、キムチの酸味が中和し、これまで経験したことのない甘美な味が広がっていく。
そう、冒険こそが世界を広げるのだ。

こうしてソウルの美食をさんざん食べ、熱に浮かされたような日々を過ごしたのだが、中でも最も唸った料理が熟成豚のサムギョプサルだった。
一番旨いとされる最上級の雌のバラ肉を、檜の箱に入れて数日間熟成させ、鉄板でカリカリに焼く。つけダレは3種類。大蒜ペーストのタレに、青唐辛子を漬けた韓国醤油のタレ、そしてもうひとつが鰯の塩辛タレだ。これに驚いた。
熟成されて軟らかくなり、甘味の増した豚バラ肉が、鰯の塩辛に大量に含まれるアミノ酸と溶け合って、スモークが湧き立つように一気に旨味が膨れ上がる。足し算しすぎだろ、と突っ込みたくなるほどだが、まったく下品になっていない。きれいにまとまっている。そう、過剰なぐらいに旨味を重ねても、バランスがとれる“力強さ”が韓国料理にはある。

このときカメラマンと一緒に食べながら、僕らは顔を見合わせ、ひたすら笑い合った。あまりの旨さに言葉も出なかった。
眼福な宮廷料理や芸術的なモダンコリアンもいいが、明日地球が終わるという日が突然やってきて、そのときたまたま韓国にいたら、迷いなくこのただただ笑ってしまう料理を食べるだろうな、と思えたのだった。

文:石田ゆうすけ 写真:中田浩資

石田 ゆうすけ

石田 ゆうすけ (旅行作家&エッセイスト)

赤ちゃんパンダが2年に一度生まれている南紀白浜出身。羊肉とワインと鰯とあんみつと麺全般が好き。著書の自転車世界一周紀行『行かずに死ねるか!』(幻冬舎文庫)は国内外で25万部超え。ほかに世界の食べ物エッセイ『洗面器でヤギごはん』(幻冬舎文庫)など。