怪魚の食卓
釣り人も喜ぶ真っ赤な魚体|怪魚の食卓89

釣り人も喜ぶ真っ赤な魚体|怪魚の食卓89

キンメダイに似たその怪魚、味もいいが欠点があるらしい。グロテスクだったり、生態が摩訶不思議だったりする怪魚たち。日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介します。

ウロコが硬い「チカメキントキ」

全長30cmほどが多く見られ、体全体が鮮やかな朱色に染まり、大きな目玉が金色に光る。そう、キンメダイによく似ている。そのため、まちがえる人が少なくない。しかし、キンメダイはキンメダイ目キンメダイ科の魚だが、チカメキントキはスズキ目キントキダイ科の魚である。あのキンメダイほど体の厚さはないが、キンメダイよりも体高があり、背ビレと腹ビレがずっと大きく広がっている。キンメダイよりももっと派手な魚なのだ。遊漁船ではこんなチカメキントキがすずなりになって釣れる時があり、釣り人たちはその美観に思わず歓声をあげている。

「チカメキントキ」という和名よりも、広く「キントキダイ」と呼ばれる。また地方名が多く、静岡県から和歌山県までは「カゲキヨ」、和歌山県では「アカベエ」、鹿児島県では「キンキン」と呼ばれる。ちなみに、カゲキヨとは平安時代の平家に仕えた勇猛果敢な藤原景清に由来する。正確にいうと景清をモデルにした歌舞伎十八番の「景清」、同じく十八番「関羽」での肩の張った赤基調の舞台衣装に似ていることから命名されたと思われる。

国内では青森県以南に分布し多くは和歌山県以南の釣りや底引き網、定置網で漁獲される。同じ白身ではあるがキンメダイよりもずっと身が締まっていて、煮ものや蒸しもの、吸いもの、刺身などどんな料理でも上品なおいしさを堪能できる。刺身を作るときは皮付きの霜降りにするとコクのあるうま味を楽しめる。

うまい魚だが欠点がある。ウロコが硬く皮にへばり付いていて始末に悪いのだ。そんな魚の欠点を逆手に取ったのが漁師流の塩焼きだ。下ごしらえは腹を切り開いて内臓を取り出すだけ。ウロコは取らずに塩を多めに振って焼けばいい。焼き終わったら箸でウロコを除きながら食べる。塩がウロコを通してほどよく身に染みわたり、しっとりした舌ざわりと清楚ともいえるうま味を楽しめる。チカメキントキ料理の真骨頂がここにある。

チカメキントキの塩焼き
①腹を切り開いて内臓を取り除く。
②ウロコの上から多めの塩を振る。
③そのまま火にかける。箸でウロコを取り除きながら食べる。
チカメキントキの塩焼き

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏