農家酒屋「SakeBase」の一年 ~田んぼの開墾から酒造りを始める酒屋~
ラボで熟成させた日本酒、いよいよ発送へ

ラボで熟成させた日本酒、いよいよ発送へ

酒屋を開いて4年目のSakeBaseが今年5月下旬から取り組んだ初の試みが、自店のバーボン樽での日本酒熟成。ドキドキしながら待つこと4ヶ月、ついに出荷の日を迎えた。

初めての自家熟成酒をお客さんの元へ

バーボン樽で、日本酒にニュアンスを

2年続いたコロナ禍のなかで、仕入れたお酒をただ売るだけでなく「今、酒屋として何ができるのか」を考え、自店での熟成にたどり着いたSakeBase。きっかけは、コロナ前までは毎週行なっていた全国の蔵訪問の際、何軒かの酒蔵の奥でウイスキー樽熟成の日本酒を飲ませてもらったこと。そのおいしさへの感動が強く記憶に残っていたのだ。「日本酒は伝統産業なので、外国産の樽で熟成したお酒は蔵元さん自身はなかなか商品化しづらいと思うのですが、僕たち酒屋なら出せると思って」(代表の宍戸涼太郎さん)と実行。その経緯は本連載の8、9回目でお伝えした通りだ。
奈良県・油長(ゆうちょう)酒造の「鷹長」(菩提酛)、栃木県せんきんの「仙禽 オーガニックナチュール」の2種類のお酒を、アメリカから輸入したバーボンのオーク樽に詰めたのが5月24日。6月にクラウドファンディングでサポーターを募集し、190人の賛同を得ていた。

テイスティンググラス
約4ヶ月半熟成した「仙禽 オーガニックナチュール」をテイスティンググラスへ。
テイスティンググラス
最初の1カ月は-2℃で、途中からは+2~3℃でキープしてきた。
テイスティング
「少しバターっぽい、オイリーな感じがしますね」と宍戸さん。

2つの酒を同時に樽に詰めたあと、「鷹長」のほうは約1ヶ月で味がのり、熟成酒としてのニュアンスもついた。ところが酒質の違いか、「仙禽」は-2℃の貯蔵ではほとんど変化が見られず、様子を見にラボにやってきた薄井蔵元からの助言もあって、庫内の温度を少し上げた。そして、先に瓶詰めして冷蔵庫にキープしておいた「鷹長」の後を追うように、10月21日に「仙禽」も瓶詰めの日を迎えたのだ。
熟成完了のタイミングはどこで決めるのかと宍戸さんに尋ねたところ、「お酒の甘さに対して、香りをどれくらいのせられるか、ですね」との答え。いわゆる古酒のイメージの、好き嫌いの分かれる重たい味わいにはしたくなく、「日本酒に詳しくない人も『オ―クだよね』とわかる程度の香りづけが目標だった」という。スタッフはもちろん、店舗の常連さん何人かにも試飲してもらい、この日の瓶詰めを決めたそうだ。

打栓機
新しく購入した打栓機で栓をする。
「SakeBase」専用キャップ
大阪のキャップ会社に特注した「SakeBase」専用キャップ。ロットと価格の関係から4万個発注したので、今後も使い続ける。
シール
瓶は、もともとオーガニックナチュールが入っていたものを使用。裏ラベル下端に、SakeBaseの名前と住所を記した「加工者、加工場所」のシールを上貼りする。
満喫セット
「満喫セット」を注文した人には、月刊「SakeBase通信」とオリジナルお猪口、店の角打ちで使えるコイン10枚を同封した。

熟成用ラボの裏手でスタッフの土屋杏平さんが洗瓶し、石井叡(あきら)さんが冷蔵庫のオーク樽から充填機でお酒を詰め、打栓する。裏ラベルにシールを貼るのは、再び土屋さんの役割だ。その傍ら、発送用箱のリサイクルに中腰で必死に取り組んでいるのが、9月末からアルバイトとして週2日働くようになった大学生の橋村蒼(そう)さん。SakeBaseに搬入される720ml 12本用の段ボールを、2本用にリサイズしているのだ。「鷹長」を醸す油長酒造の「風の森」や「せんきん」の当該蔵のもののみならず、「信州亀齢」「若波」「月山」など、SakeBaseの扱う酒の段ボールが、カッターとガムテーブで次々リサイクルされていく。190人のサポーターのうち約半数には、この手づくり感満載のリサイズ箱でお酒を届けたそうだ。

橋村さん
送付用の箱は、酒蔵から送られてきた箱をリサイクル。アルバイトの橋村さんが活躍。
リサイクル箱
完成したリサイクル箱。右から栃木の仙禽、奈良の油長酒造、長野の岡崎酒造のもの。発送分の約半数がリサイクル箱で旅立っていった。

11月11日に発送した2本セットのお酒に、飲み手はどんな感想を持っただだろうか。「初めて飲む味」「蜂蜜やナッツのような味わい」などの声が多く寄せられたという。また、「思ったより飲みやすかった」という表現も多く、「熟成酒はまだ十分に認識されない状態で、お客様の頭の中にハテナが浮かんでいるようです」(宍戸さん)とも。「だからこそ、熟成酒がジャンルとして確立されるよう何度もリリースしていかなくては、とあらためて認識しました。『おいしい』だけを追求するのが酒販店の仕事で、コンスタントに熟成酒をリリースすることで、”樽熟成”というカテゴリーを創りたいと思っています」。
SakeBaseでは12月上旬に新たなオーク樽2基が搬入され、計4基になった。今後も熟成酒への取り組みは、積極的に続けていく予定だ。

SakeBaseでの熟成を経て、新たに詰め直した2本。左が、オーガニックの亀の尾米を酵母無添加で生酛(きもと)で醸した「仙禽 オーガニックナチュール」。右は、室町時代の酒蔵法・菩提酛(ぼだいもと)で醸した酒だ。どちらも、蔵元の同意を得ての熟成トライだ。

店舗情報店舗情報

SakeBase
  • 【住所】千葉県千葉市稲毛区緑町1‐24‐2(新店舗)
  • 【電話番号】04-3356-5217
  • 【営業時間】12:00~21:00(角打ちは17:00~)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】JR総武線「西千葉駅」南口より6分

写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)