農家酒屋「SakeBase」の一年 ~田んぼの開墾から酒造りを始める酒屋~
SakeBaseラボに「せんきん」の薄井蔵元がやって来た!

SakeBaseラボに「せんきん」の薄井蔵元がやって来た!

今年5月末から、西千葉の店舗近くに新たに「ラボ」を設け、バーボンに使われていたオーク樽で日本酒を熟成させるという試みを始めた酒販店SakeBase。初回熟成に選んだ2銘柄のうちのひとつ、栃木県さくら市にある蔵元「せんきん」の薄井一樹蔵元が6月30日、ラボと熟成の様子を見にやって来た。

元ソムリエの薄井社長、樽熟成の状態をチェック

自社栽培の“亀ノ尾”米を使った「仙禽 オーガニックナチュール」はいかに!?

SakeBaseが今年チャレンジを始めた事業、バーボン樽での日本酒熟成。まずはSakeBaseのリスペクトする2社、栃木県・せんきんの「仙禽 オ-ガニックナチュール」と、奈良県・油長(ゆうちょう)酒造の「鷹長」を2基の樽に詰めて、ラボでの熟成はスタートをきった。
いずれも、信念に基づいたオリジナルな取り組みで現在の日本酒業界を牽引するリーディングカンパニー。「オ-ガニックナチュール」は、せんきんが自社でオーガニック栽培した米“亀ノ尾”を、生酛、酵母無添加で醸した酒で、同社の看板商品のひとつである。昨今は日本酒好きのみならず、ナチュラルワインのファンにも広く知られるようになった銘柄だ。

樽を挟んで立つ男性2人
-2℃に保たれた熟成室の中で、自社の酒を利く薄井一樹蔵元(右)と、SakeBase代表の宍戸涼太郎さん。

5週間前に樽入れし、-2℃の熟成室に置かれていた「オーガニックナチュール」をテイスティングした薄井さん。開口一番、「全然(熟成が)進んでないね。もっと温度を上げなきゃだめだよ」と手厳しい。オーク樽熟成には自社でも5年ほど前から取り組んでいるが、「うちでは、ワインカーブと同じ12~15℃に設定し、3ヶ月くらいで十分味がのります」とおっしゃる。とにかく温度を上げないことには、熟成が進んでいかないだろうと危惧しているのだ。

SakeBaseにしてみれば、両蔵元が精魂込めて醸した大切なお酒に変な負荷をかけて、味を台無しにしたくない。そのために「お酒をよい状態にキープしつつ香りをつける」ための温度設定なのであった。同日に樽入れした菩提酛仕込みの「鷹長」のほうは1ヶ月を経てそこそこ色も香りもついてきているが、酒質の違いか、「オーガニックナチュール」は、この温度では、ほとんど変わっていないように思える。

「コロナ期間にできること」としてSakeBaseが考え抜き、たどりついたのが樽熟成だったが、クラウドファンディングでお客さんに送る約束をしている以上、納期は守らなくてはいけない。自社での経験も踏まえて、薄井さんはその点も心配しているのである。

「そうですね。たしかに変わってないですね。考えてみます」と宍戸さん。なにしろ初めての試み。すべてがトライアルなのだ。

グラスに注ぐ様子
樽に入れて1ヶ月経ったお酒を、試飲用のグラスに入れる。
テイスティングする男性
まずは真剣に香りをとる薄井さん。

そもそも、薄井さんはこの熟成計画をどうとらえているのだろうか。
「うちも油長酒造さんも、この企画に賛同しているのは、内容がしっかりした、信頼できる企画だからですよ。単なる営利目的ではなく、日本酒の可能性や未来を見据えた内容だから、僕たちは応援しています」。
宍戸さんが初めて「せんきん」の蔵を訪ねたのは3年前。しかし、すぐに取引に進んだわけではなく、SakeBaseの店頭に仙禽が並んだのは今年5月からだ。それまでの間、何度も蔵に足を運ぶ中で、薄井さんや、杜氏を務める弟・真人(まさと)さんとSakeBaseとの信頼関係は深まっていった。

宍戸さんが席を外したとき、薄井さんが語ってくれた。「彼には、先を、未来を感じますね」。物を仕入れて売ることが販売店のひとつのスキームではあるが、コロナでそれが壊されようとしているときに「彼みたいな新しい発想に、僕は先を感じるし、変わっていく時代を一緒に生きていきたいなと思わせる存在」なのだという。「クリエイティブというほどにはまだカッコよくはない(笑)んだけど、彼らにはがむしゃらな、なんか人を惹きつけるところがあって、そこにすごく日本酒の未来を感じるんだなぁ」。

「SakeBaseラボ」内
樽は2基だが、これから増やしていく予定だ。
「SakeBaseラボ」外観
西千葉駅から徒歩8分ほど、ビルの1階にある「SakeBaseラボ」。樽が見える異質な空間に、通行人もなんだろう?と二度見していく。

その後、熟成庫の温度は+2~3℃へと、少し上げた。宍戸さんは「巷の古酒の一部に見られるような、好き嫌いの分かれる鈍い感じの味わいには決してしたくない。樽の香りだけをつけたいんです。酒屋は酒の温度管理が大事と心得ていますし、SakeBaseとしては、この温度で今は熟成を進めていこうと思います」と語る。
始まったばかりのSakeBaseの熟成物語。今後はどう進んでいくのだろうか。

店舗情報店舗情報

SakeBase
  • 【住所】千葉県千葉市稲毛区緑町1‐24‐2(新店舗)
  • 【電話番号】04-3356-5217
  • 【営業時間】12:00~21:00(角打ちは17:00~)
  • 【定休日】月曜
  • 【アクセス】JR総武線「西千葉駅」南口より6分

写真:山本尚明 文:里見美香(dancyu編集部)