"American Black Angus Tomahawk." この肉塊を焼くことは戦いだ!アメリカ先住民の斧「トマホーク」が名前の由来。斧から垂れる脂の炎と煙と格闘する場面は、まさに男の戦場。アウトドアが似合う肉だ。
アメリカンビーフと言えば、和牛の繊細な職人技イメージとは違い、ざっくりとしたイメージを持つ方が多いかもしれない。調べるとわかるが、1923年に始まった米国牛肉の品質管理の取り組みは、実に論理的で精緻で、牛肉食文化の奥深さを感じる。
今回ご紹介するトマホークは、トップ格付けのプライムの次のランクのチョイス。肥育日数が120〜180日の若い牛で、霜降り度合いが適量前後の上質な肉だ。
契約農家からパッキング会社に運ばれ、厳しく規定されたプロセスを経て、食肉処理と格付けがなされたトマホーク(骨付きリブロースの塊)の原体は、冷凍コンテナで日本に送られ、日本の職人の手で、冷凍のまま斧に整形したもの。同じ会社の同じ格付けの肉がNYの老舗ステーキハウスでも提供されている。味は間違いない。
トマホークは手強い!炭火で焼くのが一番だが、脂が炭火に落ちれば、瞬時に大火災となる。数秒間、烈火と煙を浴びれば、トマホークの表面は真っ黒になってしまう。だから、炭火の加減に注意して、常にジリジリと焼きつつ、大炎上に肉塊が巻き込まれないようにしなければならない。切り分けてから、好みの焼き具合に追い焼きすれば良いから、真っ黒にならないことと、焼き過ぎなければ、ほぼ勝利は手中にできる。
肉が硬くなるから、塩を早くから振るのは禁物。フレッシュ唐辛子やコリアンダーなどを使ったサルサと食せば、草の香りがほんのり漂う、王道のアメリカンビーフ。
文:(株)食文化 萩原章史