親子であっても、商売の仕方は違うようで......。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
やっと撮れたゾ!仲卸「政義(まさよし)青果」の親子の肖像!!なにせ、この店、料理人ひっきりなしでせわしない。会長の近藤義行さん、おかみさんの千枝さん、社長の義春さんに持ち場を離れてもらって、「ハイ、チーズ」だって。一瞬だけど、パッと決まったのは、さすが親子ですねえ。
「政義青果」は、私の野菜教室だ。まずは、イタリアンやフレンチ御用達の新顔野菜との出会いがある。食べ方や産地の伝授は、それらを仕入れてくる息子の義春さんだ。マツタケやワサビ、山菜と、料亭さん向けの野菜は、父の義行さん担当。1935年、築地市場開場と同じ年に生まれ、若いころは、「マツコン(マツタケの近藤)」の異名で鳴らした市場人力は衰え知らず、歯切れのいい説明に聞きほれてしまう。
父と子は、商売のやり方も違う。昔からの顧客で勝負の義行さんに対し、義春さんはフェイスブックなどを通じての情報発信や顧客の開拓にも熱心だ。息子は、セリ場で父担当の野菜であっても安く買えたら、ごっそり仕入れてくる。父は、息子担当の野菜に手は出さない。店頭にならぶ野菜の領域もきっちりわかれている。たがいの領分、侵さぬように。
だけど、仲が悪いわけじゃない。半端じゃない種類の野菜を仕入れてくる義春さんの領域に、たまに義行さんが「〇〇はないか」とやってくる。必要最小限の商売会話の一瞬、義行さんの視線が息子の仕入れた野菜に泳ぐ。そんな時の義行さんの表情がいいんだなあ。息子のヤツ、頑張ってるじゃないか、の気持ちをぐっとおさえているふうで、フフッなのだ。
仲卸はいずこも家族経営。義春さんは、幼いころ、市場で自転車の三角乗りを覚えたというが、たいていは子供のころから市場の空気に触れながら、その道を辿っていく。
そんな人生もありだったなあと、この写真をながめるうちに、ちょい涙腺がゆるみそうになるのだった。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2016年6月号に掲載したものです。