どう魚を売れば消費者に届くのか?日々考える人がいる。豊洲市場の文化団体「銀鱗会」の事務局長である福地享子さんが、2018年11月までdancyu本誌で執筆していた「築地旬ばなし」の転載です。
銀鱗会にツブラ君がやってきた。ツブラ君は水産仲卸の従業員。オッサン年齢に達しているけど、魚のことを語るとき、その瞳は少年みたいに輝く。だからツブラ君。「魚の売り方、提案しようと思ってんですよ、オレ」と、切り出したツブラ君。ホレ、瞳キラキラ。
「量販店とかの魚売り場、どう思います?」
近所のスーパーの魚売り場や駅地下の大型鮮魚店。どこも照明に気をつかったり、丸ごとの魚を飾ったりと、鮮度感のあるおいしげな陳列を工夫してるみたいだけど……。
「ね、それだけでしょ」と、ツブラ君はおおいに不満らしい。「もっと売れる、親切な売り方があるはずですよ」
たとえば切り身。種類ごとにならんでいるが、見ただけではどんな料理法がいいのかわからないひともいる。そこで、料理別にならべるのだ。こってり煮つけ用、上品白身の煮つけ用、照り焼き用にムニエル用といったぐあいに。
「あさりのパックもグラム数の表示はあるけど、これだけじゃ不親切。ボンゴレ用なら1人前、みそ汁なら2人前ができるよって、グラム数といっしょに表示してもらうんですよ」
ツブラ君が提案しようとしているのは、レシピが見える陳列。魚料理をつくるヒントがもらえる売り場だ。
思い浮かべたのは、結婚5年目にしていまだ魚料理にオタオタの姪っこだ。ブリ照りのつもりで買いに行ったらブリがなく、でも、かわりの魚が思いつかなくて肉にした、と聞かされたばかり。たしかにどんなにきれいに魚がならんでいても、料理法がわからなければ、彼女にとっては、ただの蝋細工に過ぎない。魚離れなんていうけど、売る側にもちょっとした努力、親切心が欠けていたのかもしれない。
「大型鮮魚店に提案、仕掛けてるとこ。やりますよ、オレ」
この件につき、ただいまツブラ君、孤軍奮闘中である。
文:福地享子 写真:平野太呂
※この記事はdancyu2013年6月号に掲載したものです。