1日1m成長するタケ(筍)は 植物界で最も成長が速く、最大種の孟宗竹には約60個の節があり、全ての節が同時成長する節間成長が爆発的成長を可能にする。竹は邪気を払う凄い力があるとされ、神事でも多用される。そんな竹の神秘の力がこもる筍(竹冠に旬と書く)こそ、旬の美味。
中国から日本に孟宗竹が伝来した地の一つとされる京都やましろ地域は、古くから筍の名産地。粘土質の土壌は有機質肥料の養分と水分を、安定的に竹に供給するから、質の良い筍が育つ。秋から冬、竹林に大量の土を投入する『土入れ作業』が行われる。筍のための保水・保湿のふかふか布団の役割を果たす。布団の僅かな膨らみで、筍の場所がわかるので、日光を浴びる前の、色白で柔らかでエグミが少なく、しかも歯ざわりが良い、素晴らしい筍が収穫できる。
京たけのこ部会は、新国立競技場の敷地より狭い9.7haを27人の生産者で管理する。竹の密度が低く、お日様がたっぷり注ぐ地面は、蕗の薹や土筆だらけ。色白で小ぶりで、見た目は弱々しくても、土とお日様の力を凝縮した筍が白子たけのこ。毎年7月くらいから、土中には筍が生まれるが、気温が15度くらいにならないと、土中で腐ってしまう。1本の竹は300本ほどの筍を生み、日の目を見るのは60本ほどと言われる。爆発することなく消えていった仲間の分も、筍は凄い力を持つのだ。
神道で青竹が神霊を招くための依代(神籬)や門松などに用いられるように、竹には邪気を払う力があるとされる。猛烈な速さで成長し、冬でも青々としている生命力の竹。竹から生まれた『かぐや姫』が、瞬く間に成長したのも竹の力。えびすさんの福笹、熊手。全国各地に竹の力を信じる日本人の伝統と文化が残る。竹は特別な植物だ。古事記では伊邪那岐神(いざなぎのみこと)が黄泉醜女に追われ絶体絶命の危機で、桃を投げて黄泉軍を撃退するが、桃の前に竹櫛を折って投げつけ、そこから筍が生え、鬼たちが筍を食べる間に逃げる一文がある。
筍は紫外線にあたると成長が止まる。筍の皮が紫外線を遮断している間、筍は成長を続ける。その猛烈な生命力が掘り出され、保冷車で豊洲市場に届き、冷蔵便でお客様にお届けする特別企画。『白子たけのこ』は届いた日に下茹でするに限る。とうもろこしのような甘さ!たっぷりの木の芽とわかめで若竹煮、筍ご飯、白魚と卵とじ……どんな料理でも抜群にうまい!但し、味は薄味に限る。
文:(株)食文化 萩原章史