養殖トラフグと食べ比べれば、違いは歴然である。潮流の激しい海域で甲殻類を食す、アスリートで美食家のトラフグ。透き通る身は、刺身・鍋・焼き・揚げ、何にしても美味しい。特に白子は、食通を虜にする妖しい魅力を持っている。
4〜6月がトラフグの産卵期。よって、3月まで良質な白子が入っている。
天然トラフグの白子は、驚異的にクリーミーかつ濃厚な比類なき美味!食せば、口の中を十数秒間は白子一色に染める力がある。今の時期を逃すと、次に白子を食べられるのは年明け。巨大な白子で鍋もよし、小ぶりなもので炭火焼もよい。茹でて固めて切り分け、アルミホイルに広げてオーブンで焼いてもうまい。白子酒は危険と言っても過言ではない。中国ではフグの白子を西施乳(春秋時代の絶世の美女の乳房の意)と呼ぶ。きっと命がけでも、食べたいものだったのだろう。
上質な天然トラフグは釣り漁で、生きたまま水揚げされ、生きたまま競りにかかり、生きたまま流通する。潮流が激しく、水深が深い海域では、身が引き締まり、素晴らしい筋肉をもつ。甲殻類の餌に恵まれる海域では、さらにうまみものる。上質な天然トラフグは養殖トラフグの4〜6倍の相場が一般的だから、市中の殆どのトラフグ料理は養殖物だ。食べ比べると、明らかに違う。上質な天然トラフグは、食感も香りも味も違う。
天然を食べると、これまで有り難く頂いていた養殖ものは何だったの?と思うはずだ。
天然トラフグは皮が硬く厚く、見た目だけで身質を判断するのは難しい。専門の腕の良い捌き手が危険部位を取り去り、皮をはぎ、身欠き状態にして、完璧な目利きが可能になる。時期により、上質なフグの産地は違い、漁師によっても違い、水揚げからの日数によっても同じ活魚でも違う。今回は豊洲市場トップクラスのフグの扱いで有名な、尾坪水産のフグの目利き人の串田晃一が、トラフグの目利きと完璧な処理をする。
フグ専門店でも上質な天然物を扱うところは数少ない。刺身は少々難しいが、鍋と焼きと揚げ物なら、出刃包丁があれば簡単にできる。仮に身欠きは諦めても、白子はチャレンジしてもらいたい。天界の玉餞か魔界の奇味か!天然トラフグの調理の仕方も準備完了!こちらを参照して、ステイホームで凄い天然トラフグを堪能したい。
文:(株)食文化 萩原章史