南青山のイタリアン「トゥリオ」では伝統的な手法で焼かれる“ビステッカ”が楽しめます。ぜひ香ばしさが一味違うステーキを味わってみてください!
「肉は香りだよ。そのためには焼き切ることが必要なんだ」。分厚いLボーンを焼きながら、猪狩英嗣シェフはつぶやく。肉の状態を確かめつつ、焼ける音を聞きながら何度も裏返してしっかり焼く。肉は北海道の黒毛和牛だが、焼き方はフィレンツェ名物“ビステッカ”の伝統的な手法、そして渋谷や青山と店の場所は変わったが、猪狩シェフが30年以上、頑なに守り続けているスタイルだ。
焼き上がったビステッカは、表面がこんがりと輝き、香ばしい。カットすると、きれいに火が入っているのがわかる赤銅に近い美しい赤色。大きめに切って口に入れると、香ばしさと肉の旨味が層をなして広がる。何もつける必要がない。カリッと焼けた表面の香ばしさが、ステーキの最高の調味料であること、そしてしっかり火が入ってこそ、本当の牛肉の旨味と食感を味わえることを、改めて実感する。
「ほら、肉はしっかり焼いたほうが旨いんだよ」と、ニヤリとする猪狩シェフの表情は渋谷時代と変わらない。「2年ほど旅に出てた」というブランクを経て3年前にこの地に再オープン。渋谷時代からこの焼き切る旨さの虜になった常連客も、再び集まっている。客も歳を重ねたが、もちろん、全員が必ずビステッカを食べるのだ。
文:大石 勝太 写真:海老原 俊之
※この記事の内容はdancyu2018年10月号に掲載したものです。