青森県陸奥湾産の養殖フジツボ。フジツボは貝のように見えるが、実はエビ・カニと同じ甲殻類。大きいものは直径4センチ以上にもなる、蟹のようで、海老のようで、雲丹のような……高級料亭の品書きにも入る究極の酒肴は、比類無き美味しさです。
峰は山頂、富士は富士山。つまり、日本のフジツボで一番高い(大きい)という意味。
孵化した幼生はエビやカニ同様に海中を浮遊して育ち、成長すると、岩などにへばりつき、エビ・カニの甲羅の代わりに、硬い貝殻状のすみかを作り、その中で成長する。
青森県では古くから食べられてきた夏の美味だ。
たわしで洗い、ひたひたの薄めの塩水に並べ、蓋をして沸騰したら火を弱め、5分ほどで完成。素材の味と香りが絶妙なので、茹でるか蒸すような単純な料理がおすすめ。
硬い殻の中に、二枚貝のような部分があるので、それを摘んで身を引っ張り出す。指が入らない場合は、小ぶりのフォークや金串でもOK。つまり、エビやカニの殻をむく代わりに、硬い殻から引っ張り出すのが食べ方の基本。
大きく分けると2つの色にそれぞれの味がある。オレンジ色の部分は雲丹と海老の内子と淡白な蟹味噌を足して、3で割ったような味。濃厚でありながら、後味はすっきりしている。白い部分は蟹と貝と海老を足して、3で割って、少し蟹の味が強い印象。
グロテスクとか、値段が高い割に食べる部分が少ないとか、否定的なご意見もあるが、純粋にこれは非常にうまい!甲殻類はアミノ酸類の宝庫。うまみ成分のコンビネーションが絶妙だ。
この味は酒肴以外の何者でもない。ご飯との相性は明らかに良くない、おとなの食べ物だ。中身を引っ張り出して食し、次に富士壺の底に残った汁をすする。
生きている時の姿は少し不気味だが、食べたら驚くマニア垂涎の珍味。陸奥湾の夏の美味は生産量が限られる、一般入手が難しいローカルな高級食材だ。
出始めの鮭の卵の皮は繊細で柔らか。たれに浸けすぎず仕上げたい。
ご飯にのせて食べれば、まるで上質な卵かけご飯のよう。海苔や山葵との相性も抜群だ。
文:(株)食文化 萩原章史