料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・荻窪にある和食料理店「有いち」では、和食ならではの材料を使ったとろ~り温かな丼を食べていました。手早く、でも和食らしさのあるまかないの話を聞きました。
「小さな店ですけど、野菜の種類は豊富にあります。お客様にお出しするのは真ん中の形のいいところですから、切れ端はたくさん残りますね。その部分を使うという、まかないらしいまかないを食べていますよ」と笑って話すのは、ご主人の橘光太郎さんだ。
「厨房は僕ともう一人。サービスを入れても4人です。この人数だから、朝からまかないのために何かを仕込むということもありません。僕かもう一人の、仕込みが先に終わった方がまかないを作っています。その時にある野菜に肉を加えてあんかけにし、ご飯にかけるのが定番ですね」そう言いながら、10種類近くの野菜を盛り合わせる炊き合わせや、糠漬けなどを作ったときに出てくる切れ端をまな板の上で切り始める。
ナスとゴーヤはサッと揚げ、薄切りにしたニンジンはボウルに入れて熱湯をかけている。その他の野菜は鍋の中に入れ、だしで煮る。
「どれもささっと切っているんですが、頭の中では、“この野菜はこう切った方が美味しいかな”なんて考えながらやっています。その一方で、“おいおい、忙しいのにそんなことにこだわってんじゃないぞ”とも考えていて(笑)どんなに忙しくても、美味しさや楽しさを追求してしまうのが料理人ってもんなんでしょうね」
味付けのベースとなるだしもまた、まかないらしいものだ。野菜の炊き合わせを作るとき、それぞれの野菜を異なるだしで煮ているのだが、これを全部ミックスしているのだ。昆布に鰹節、煮干し、海老の殻、ハモ……、全てが混ざれば、あんかけにはぴったりの奥深いだしとなる。あんのとろみは葛でつけるというから贅沢だ。
「言われてみれば、確かに圧倒的に片栗粉の方が安いですね。でも、店には葛しかないんですよ」と微笑む。
このまかないを食べた後に食事をとれるのは営業時間後。野菜だけだとさすがにスタミナが切れるので、丼には必ず肉が入る。ご飯の量は各自で調整することになっている。
出来上がったものを口にすると、しっかりと味のあるあんがご飯をコーティングして、なんとも美味。ニンジンの歯応えや、柔らかいナスなど、ひと手間がちゃんときいていて、メリハリがある。
「まかないは2時ごろからですが、ちょうどその前に、その日お出しする蕎麦を打つんです。なので、まさに打ち立ての蕎麦をこの丼につけることもよくあります」とは、これまた羨ましい!
文:浅妻千映子 写真:青谷慶