スペシャリテとまかない~素敵なレストランの美味しい話~
「有いち」のまかない"野菜と豚肉の葛あんかけ丼"||スペシャリテとまかない②後編

「有いち」のまかない"野菜と豚肉の葛あんかけ丼"||スペシャリテとまかない②後編

料理人やスタッフの元気の源まかない。東京・荻窪にある和食料理店「有いち」では、和食ならではの材料を使ったとろ~り温かな丼を食べていました。手早く、でも和食らしさのあるまかないの話を聞きました。

本日のまかないは“野菜と豚肉の葛あんかけ丼”

「小さな店ですけど、野菜の種類は豊富にあります。お客様にお出しするのは真ん中の形のいいところですから、切れ端はたくさん残りますね。その部分を使うという、まかないらしいまかないを食べていますよ」と笑って話すのは、ご主人の橘光太郎さんだ。

ご主人の橘光太郎さん。
ご主人の橘光太郎さん。

「厨房は僕ともう一人。サービスを入れても4人です。この人数だから、朝からまかないのために何かを仕込むということもありません。僕かもう一人の、仕込みが先に終わった方がまかないを作っています。その時にある野菜に肉を加えてあんかけにし、ご飯にかけるのが定番ですね」そう言いながら、10種類近くの野菜を盛り合わせる炊き合わせや、糠漬けなどを作ったときに出てくる切れ端をまな板の上で切り始める。

ナスとゴーヤはサッと揚げ、薄切りにしたニンジンはボウルに入れて熱湯をかけている。その他の野菜は鍋の中に入れ、だしで煮る。
「どれもささっと切っているんですが、頭の中では、“この野菜はこう切った方が美味しいかな”なんて考えながらやっています。その一方で、“おいおい、忙しいのにそんなことにこだわってんじゃないぞ”とも考えていて(笑)どんなに忙しくても、美味しさや楽しさを追求してしまうのが料理人ってもんなんでしょうね」

味付けのベースとなるだしもまた、まかないらしいものだ。野菜の炊き合わせを作るとき、それぞれの野菜を異なるだしで煮ているのだが、これを全部ミックスしているのだ。昆布に鰹節、煮干し、海老の殻、ハモ……、全てが混ざれば、あんかけにはぴったりの奥深いだしとなる。あんのとろみは葛でつけるというから贅沢だ。
「言われてみれば、確かに圧倒的に片栗粉の方が安いですね。でも、店には葛しかないんですよ」と微笑む。
このまかないを食べた後に食事をとれるのは営業時間後。野菜だけだとさすがにスタミナが切れるので、丼には必ず肉が入る。ご飯の量は各自で調整することになっている。

大嶋慎也さん
「有いち」に入って5年目の大嶋慎也さん。「美味しいです!」とはにかむ。

出来上がったものを口にすると、しっかりと味のあるあんがご飯をコーティングして、なんとも美味。ニンジンの歯応えや、柔らかいナスなど、ひと手間がちゃんときいていて、メリハリがある。
「まかないは2時ごろからですが、ちょうどその前に、その日お出しする蕎麦を打つんです。なので、まさに打ち立ての蕎麦をこの丼につけることもよくあります」とは、これまた羨ましい!

まかない“野菜と豚肉の葛あんかけ丼”

作り方
新生姜とにんじんとゴーヤは薄切りにする。カブは8等分し皮を向き面取りをする。茄子は一口大に切る。プチトマトは4等分に切る。豚肩ロースの切り落としも、一口大に切る。
作り方
ゴーヤーと茄子はさっと油通しする。
作り方
にんじんはボウルに入れ、熱湯を注ぎ火を通す。
作り方
鍋にだしと、醤油、酒、みりんを入れ味を見る。そこに、にんじん、プチトマト以外の野菜と豚肉を入れ、葛でとろみをつけ5~6分煮込む。
作り方
かぶに火が通ったら、にんじんとプチトマトを加え、プチトマトがくったりしてきたら火を止める。
作り方
丼にご飯をよそい、鍋の中身をかける。
完成
あつあつのうちに召し上がれ。

文:浅妻千映子 写真:青谷慶

店舗情報店舗情報

有いち
  • 【住所】東京都杉並区上荻1‐6‐10
  • 【電話番号】03‐3392‐4578
  • 【営業時間】17:30~22:00(L.O.)
  • 【定休日】日曜
  • 【アクセス】JRほか「荻窪駅」より1分
浅妻 千映子

浅妻 千映子 (食ライター)

大学卒業後、3年間のゼネコン勤務ののち、ライターに。雑誌やweb等で活躍。料理研究家としてレシピ開発も。著書に『江戸前握り』『パティシエ世界一』(光文社新書)など、レシピ本に『浅妻千映子キッチン』(ぴあ)、『ほめられレシピ』(主婦と生活社)がある。『東京最高のレストラン』(ぴあ)の審査員。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート。