怪魚の食卓
カラフルな皮が旨いんです|怪魚の食卓⑪

カラフルな皮が旨いんです|怪魚の食卓⑪

沖縄の海や市場で見ることのできる、食用とは思えないカラフルな魚たち。先入観を捨て食べてみると、意外な美味しさに出会えるかも。見た目はグロテスクだけれど、日本にいるまだまだ知られていない美味しい怪魚をご紹介。

沖縄ではブダイ科の魚を「イラブチャー」と呼ぶ

沖縄の海には赤青黄色とカラフルな魚が棲む。これを「きれい!」と感動する水族館的な目はあっても、「おいしそう!」と思う目を持つことはなかなかむずかしい。特に沖縄でもっとも有名な青色の「イラブチャー」となると、食卓にのぼる姿は想像できない。

沖縄でいうイラブチャーとはブダイ科の魚の総称である。ブダイはおでこが扁平で種類によっては目の上にこぶがあって目が小さく、すっとんきょうな顔をしている。オウムのクチバシに似た歯を持っていて、この歯でガジガジと硬いエサを食べるのだそうだ。沖縄にはブダイの仲間が数十種類もいるというが、沖縄の市場に並ぶ青色を帯びているイラブチャーは「イロブダイ」「ナンヨウブダイ」などで結構な高値で取引される。ちなみにブダイの仲間には毒がある魚もいるので、調理の際は慎重に見極めることが必要だ。

沖縄にはこの青いイラブチャーの皮を生かした握りを食べさせてくれる鮨屋がある。松皮造りという霜降りにしてから握る。松皮のようにそった皮が際立ち、うっすらと青色が残っていて、きれいさでもほかの握りにひけをとらない。ふわっとしたやわらかめの身は口当たりがよく、皮と身の間に潜む控えめな旨味がやさしく広がってくる。これが酢飯によくなじみ、後味も嫌味がない。

イラブチャーのうまさを知ると、沖縄の海に潜ったときの心境の変化に気づくだろう。赤青黄色の魚を見て、「おいしそう」と心でつぶやいているはずだ。

イラブチャーの握り
1 酢飯を用意する。
2 イラブチャーのウロコを取り、腹を切り開いてエラと内臓を取り除き頭を切り落とす。背と腹に切れ目を入れて、中骨の上に包丁を入れて尾まで切り進める。反対側も同じようにして三枚におろす。腹骨をすくように切り取る。
3 おろした身の皮目に熱湯をかけ、すぐに冷水にとる。
4 握りサイズに身を切り分け、握る。
イラブチャーの握り

解説

野村祐三

日本全国の漁師町を精力的に取材して50年。漁師料理に関する経験と知識は右に出る者なし。『旬のうまい魚を知る本』『豪快にっぽん漁師料理』など地魚の著書多数。

文:小泉しゃこ イラスト:田渕正敏