焼肉が食べたい!という時折迫りくる欲望は、抗いがたいものがありますよね。そんな欲望を満足させる珠玉の焼肉店をご紹介します!今回は鮫洲にある肉の卸問屋が営む焼肉店です。
肉の端を箸で持ち、焼き網の上にそっと置く。数秒もすれば食欲をそそる脂がジワッと浮き出してくる。間髪入れずに裏返し、もう一息。鮮度のいい肉は余計な煙が立たない。自家製ダレにつけ、一口で頬張る。
ううぅ、旨い。ミスジのとろけるように柔らかく、絹のような食感がやみつきになる。社長の乙川隆之さんは地元で42年続く食肉の卸会社の二代目。毎日、芝浦市場の競りに参加している。
「銘柄にこだわらず、自分の目で見て納得する黒毛和牛の雌牛だけを一頭買いしています。肉質と価格には他に負けない絶対の自信があります」
ミスジは肩の肩甲骨の内側に位置し、一頭からわずかしか取れない。名物の“乙ちゃん盛り”は、このミスジなどの希少部位が、ダイナミックに800gも盛り込まれる。いわゆる霜降りの部位が中心なのに、後味が爽快なのは良質な肉の証。肉の卸問屋の意地と誇りの集大成がここにある。
文:中原一歩 写真:本野克佳
※この記事の内容はdancyu2017年10月号に掲載したものです。