水害を生き残った長兵衛爺さんの里芋

水害を生き残った長兵衛爺さんの里芋

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令和元年9月に発生した台風第15号と10月の台風第19号は、日本の農業に甚大な被害をもたらした。水害の生々しい傷跡が残る中、産地に思いを寄せる料理人が支援に立ち上がった。

「親友の農家がたいへんな被害にあっているんです。彼のために何かしたい」。そう話すのは、福島県を代表するフレンチシェフ、萩春朋さんだ。萩さんは福島県いわき市「HAGIフランス料理店」のオーナーシェフ。福島県内の産地に足繁く通い、生産者と語らい、その魅力を皿の上に表現してきた。

福島県の食材を知り尽くす萩さんが気にかけていたのが、自然農法で野菜を生産するいわき市のファーム白石の代表、白石長利さん。江戸時代から代々続く農家の八代目として、米、キャベツ、ブロッコリーなどを農薬や化学肥料を使わずに栽培し、福島県内の有名レストランや全国のファンに直送販売している。

萩春朋シェフ(右)、中田智之シェフ(左)と農家の白石長利さん。
腹ごしらえをしてから作戦会議。支援にかけつけた萩春朋シェフ(右)、中田智之シェフ(左)と農家の白石長利さん。

「白石さんの野菜はどれも気に入っているのですが、なかでも里芋が絶品なんです」と萩さんは言う。「普通の里芋が板チョコだとしたら、白石さんの里芋は生チョコ」。驚くほどしっとりしていてクリームのような食感だとか。
今年2月、萩さんは、福島県郡山市のフレンチレストラン「なか田」のオーナーシェフ、中田智之さんとともに、白石さんの農場へ足を運んだ。中田さんも萩さん同様、料理を通じて福島の食の力を伝えるシェフ。白石さんの里芋に惚れ込んだ一人だ。

里芋
白石家に代々伝わる里芋。白石さんの祖父、長兵衛さんにちなんで「長兵衛いも」と呼んでいる。

ご先祖様が残してくれた“奇跡の里芋”

「よくいらっしゃいました」と気さくな笑顔で迎える白石さん。その笑顔から想像できないほど、被害は甚大だった。
近くの水路が氾濫し、3haの畑、2.5haの水田、20aのガラス温室ハウスがすべて水没した。高台にある自宅も床上浸水した。畑には冬場に出荷するキャベツ、ブロッコリーなどの苗が順調に育っていたが、泥水につかってすべてダメになった。ハウスや農業機械を含めると3,000万円以上の損害だという。

そんな中で、“生チョコのような”里芋は奇跡的に生き残った。葉物野菜が全滅する中、根菜の里芋は、深い土中にあったため、ほとんど被害が出なかった。
「爺ちゃんの頃から100年以上育ててきた里芋だけは、水没した畑の中で元気に生き残ってくれました」と頬を緩める。

キャベツ畑
水害の爪痕が残るキャベツ畑。苗の段階で水没したので、結球しない育成不良が目立つ。
壊れた納屋と農機具
農機具や納屋なども水害により全滅。被害は甚大だ。
草野城太郎さん(右)
同じく大きな被害を受けた草野城太郎さん(右)が長兵衛いもの生産に加わった。

「さすが長兵衛いも。ご先祖様のお導きだね」とうなずく萩さん。白石さんは自身の里芋を「長兵衛いも」と呼んでいる。もともとこの地域で江戸時代からつくられていた在来品種で、白石家は種芋を絶やさないように受け継いできた。農業の面白さを教えてくれた祖父の名前にちなんで、台風被害を生き残った里芋を「長兵衛」と名付けたのだ。

「この地域は昔から定期的に川が氾濫して水害が発生しています。その度に、作物はダメになりますが、川の氾濫は肥沃な土壌を運んできてくれ、翌年から収穫が増えます。在来の里芋は、そうした自然のサイクルを生き残ってきた品種。先人の知恵が詰まっていたわけです」と白石さんは目を細める。

今回の水害を機に、白石さんは長兵衛いもの作付けを増やすことを決めた。今後も異常気象は続くかもしれない。同様の水害が襲ってきたときに生活の基盤を支える切り札になると考えたのだ。

自然災害に強い農家になるために

仲間もいる。同じ地域で青ねぎの水耕栽培をしている草野城太郎さんはその一人。青ねぎを水耕栽培する草野さんの47aのハウスは水害で壊滅した。復旧の目途は立っていない。草野さんも水害に負けない農業の必要を痛感し、白石さんから長兵衛いもの種芋を譲り受け、栽培の指南を受けることにした。

「長兵衛いものファンは多くて、毎年売り切れていました。今回の災害に泣かされるだけでは、悔しすぎます。この災害から学び、災害に強い農家になるきっかけにしたいと思っています」と白石さんは語る。
「長兵衛いもを使った新しい料理をどんどん店で出すよ」「高級コロッケにして百貨店や通販で売り出そう」「この品質なら十分贈答品としての需要もある」……。農家と料理人の合同作戦会議は熱を帯びていく。

「ちょっとお腹が空いてきませんか」と白石さんが立ち上がる。「せっかくだから農家の里芋料理を食べていってよ」。
そう言って出してくれたのが、白石さんの母親がつくり置きしてくれていた煮っころがしだった。

煮っころがし
白石さんのお母さんお手製の煮っころがし。

「これをやられちゃうとフレンチの料理人はお手上げです」と中田さん。
「里芋ほどシンプルな煮物に合う素材はないからね」とうなずく萩さん。
「それなら、こんなのも作りましょうか」と白石さんは冷蔵庫から長兵衛いもを潰したペーストを取り出し、手早くお好み焼きを焼き上げた。

お好み焼き
「山芋を使ったお好み焼きよりも生地がしっかりしているね」と萩さん。「カリッとした表面に可能性を感じます」と中田さん。

外はカリッとして中はふわふわの食感に驚く2人のシェフ。料理のアイデアがどんどんわいてきたようだ。「次は僕らが白石さんを驚かせる番ですね」。福島を愛する料理人が長兵衛いもをどんな素敵な一皿にしてくれるか、乞うご期待。

「長兵衛いものお好み焼き」

材料材料 (4枚分)

長兵衛いも500g(蒸してすり潰したペースト)
豚バラ肉100g(うす切り)
キャベツ200g(ざく切り)
紅生姜30g(みじん切り)
細ねぎ10g(小口切り)
小麦粉大さじ4
顆粒だし大さじ1
サラダ油大さじ1
材料

1生地をつくる

豚肉以外の材料をボウルに入れて混ぜ合わせて生地をつくる。

生地をつくる
具を入れる

2生地を蒸し焼きにする

中火にしたフライパンに油を熱し、生地を入れる。生地の上に豚肉をのせ、フライパンに蓋をして蒸し焼きにする。その後豚肉に火が通り、色が変わったらフライ返しで生地を返す。

フライパンで焼く
両面焼く

3蓋をせずに5分ほど焼いたら出来上がり

好みでソース、マヨネーズなどをかけるが、まずはそのままどうぞ!

出来上がり

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文:松本えり 写真:山出高士

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