観光客の知らない浅草~浅草高校・国語教師の浅草ランチ・ベスト100~
滋養の薬膳スープ「参鶏湯」を半身で日常的に|神林先生の浅草ランチ案内㉑

滋養の薬膳スープ「参鶏湯」を半身で日常的に|神林先生の浅草ランチ案内㉑

滋味あふれる参鶏湯(サムゲタン)にスンドゥブチゲ。東京都立浅草高校夜間部(正しくは、昼から夜の授業を担当する三部制B勤務)国語教師、神林桂一さんによる浅草エリアのランチ案内です。足を運んで、食べて選んだ自作ミニコミ「浅草ランチ・ベスト100」より、今回は韓国料理店の登場です!

オモニの味料理は、そのまたオモニの技と味を受け継いでいる。

浅草に飲食店は星の数ほどあるが、Googleの読者の口コミによる評価で常にトップクラスの「4,6~4,7」を保っている店がある。韓国家庭厨房「ムグンファ」(2002年開店)である。浅草には、僕のリスト「浅草ランチ・ベスト100」にある「ソウル食堂」の他、教え子の実家「なると」、その姉妹店「ぽらむ」、チーズタッカルビの「飛豚17」などの韓国料理店があり、「ムグンファ」は一番古く定評のある店だ。

外観
カンバン
浅草の深き食文化を伝えたい」という情熱から、神林先生が独自の視点で「浅草のランチ偏愛店」100軒を紹介する自作のミニコミ。マークの意味は、★=増税後も値上げなし、歴=歴史あり、味=味よし、人=人よし、雰=雰囲気よし、独=独自性あり、女=女性に推薦、C=コスパよし。
神林先生の「浅草ランチ・ベスト100」中華・韓国料理部門より。
(ランキングは、テーマや先生の独断で変動することも多分にあります)
▼23軒目「ムグンファ」
日替わりおかず3品付き。スンドゥブチゲ900円、半鶏湯1,000円。グッチ祐三も来店。
▼24軒目「ソウル食堂」 
ユッケジャン、ソルロンタンなどおかず5種付きなお得なランチ約18種あり。
▼25軒目「華春樓」
先代は中華街で修業。ランチセット約28種は、サラダ、スープ、ライス、お新香付き。
▼26軒目「あさひ」
創業約100年。中華そば、餃子など安くて旨い。中村勘三郎御用達との噂も。
▼27軒目「太陽」
1960年頃開業。名物は特大揚げ餃子。ドラマやCMのロケ地として多用される。

ママ(オモニ)の金明孰(キムミョンスク)さんは、司法書士の旦那さんと結婚して来日した。民間レベルの日韓交流だ。安倍晋三首相、文在虎大統領にも少しは見習ってもらいたいものだ。
ママは、ソウルの「ロッテデパート」の販売員をしている時に、その食堂で出していた本格スンドゥブチゲを覚え、浅草でも看板メニューとした。スンドゥブ(純豆腐)という柔らかい豆腐と、アサリ・豚肉・キノコ・野菜・唐辛子粉などを煮込み、生卵を落とした辛い鍋料理のことだ。日本でスンドゥブチゲが人気になり「東京純豆腐」が開店するのが2006年だから、「ムグンファ」は流行のずっと前から本物を提供していたことになる。

ママ
「ムグンファ」のママ、はつらつとした金明孰(キムミョンスク)さん。

ママは家庭料理の名人であるお母さんの技と味を受け継いでいる。そして、韓国のお母さんやお姉さんは、農家のいい食材をママに送って店を支えてくれている。ママは「私が使うトウガラシは天日干しの甘くておいしいものなので、他の店の2倍高いのよ」と自慢する。「ムグンファ」が高品質の料理を格安で提供できる秘密は、この家族の協力にあるのだ。

カウンター
2階の座敷も含めて約40席分もの料理は、こちらの小さなキッチンから繰り出される。マジック!

宮廷料理・薬膳料理の参鶏湯をランチに1,000円で出してくれる。何と有難いことか!

ママには、スンドゥブチゲと海鮮チヂミは「東京で一番の味」という自負がある。『オモニの韓国料理』(2010年発刊・ブティック社)では、四谷「妻家房」・新大久保「梁の家」・五反田「チェゴヤ」などの有名店を抑えて、他店の倍の18品のレシピを公開しているほどだ。
テレビ番組『昼めし旅』(テレビ東京、2014年5月放送)でも、スンドゥブチゲに加え、まかない飯も紹介されたという。

雑誌
ママがレシピ紹介をした料理本。これまで取材も多数受けてきた。

ランチメニューは、「スン豆腐(ドゥブ)チゲ」(ライス大盛りサービス)・「スン豆腐(ドゥブ)ラーメン」(半ライス付き)・「石焼きビビンバ」・「ビビンバ」が900円だが、僕は「半鶏湯」(ハンゲタン)がお気に入り。「参鶏湯」(サムゲタン)の半身というママの造語だ(笑)。

スン豆腐チゲ
ぐつぐつ熱々に煮立った状態で供されるスンドゥブチゲ。
石焼きビビンバ
具沢山で、天日干しの唐辛子とあさりの旨味がしっかりしみ出たスープ。ライスを浸していただこう。

参鶏湯は丸鶏のお腹の中にもち米・生の高麗人参・ナツメ・ニンニクなどを入れて煮込む宮廷料理・薬膳料理で、他の店では高級料理なのだが、ママはランチに1,000円で出してくれる。何と有難いことか!
3時間煮込まれた肉も旨いが、何よりうすい塩味のスープが絶品だ。半ライスも付くので、スプーンにのせてスープに浸して食べるのも至福の瞬間だ。韓国では夏の食べ物で、日本人がウナギを食べるように「三伏の日(夏の三回の庚の日)に食べると健康に良い」とされている。

参鶏湯
丸鶏の半身はほろほろと崩れるほど柔らかい。漢方食材が共に煮込んであり、旨味も滋養もたっぷり!
神林先生
「いただきますよ~」
神林先生
「アツアツッ!」
神林先生
「う~ん!おいしいねぇ~!」
神林先生
半身といえど食べ応えはしっかり!おかずが付くのもうれしい!
神林先生
「風邪気味のときでも元気になる味だね!」

ランチには日替わりのおかず3品も付くが、このおかずは「パンチャン」という韓国料理店でお馴染みの野菜中心の小皿料理だ。三国時代に仏教の影響で肉を食べることが禁じられた時代に発達したという。「ムグンファ」では自家製キムチやナムルだけでなく、チヂミやイカ炒めなどが付くことも。この日は「プルコギ」も付いたのでラッキー♪

警察関係の方々も御用達です。

「ムグンファ」の本格韓国家庭料理と明るいママの人柄にはファンが多く、移転前の店から近かった警察関係の方々の宴会にもよく利用されるという。数日前にはネットを見てノルウェーの学生13人がやってきた。多くの有名人も通っており、芸能界ナンバーワンの料理の腕前といわれるグッチ裕三もママから「ホルモン炒め」を教わって、自分の料理番組で紹介していた。

ピーポくん
警視庁のシンボルマスコット、ピーポくんが見守ります。
壁

ドラマ『極道めし』(BSジャパン・2018年)ではロケ地として使用され、暴力団組員役の俳優・小沢仁志とその相棒役の西井幸人も訪れた。驚いたことに、ママは西井幸人の母親役で出演し、刑務所に入る息子を張り飛ばして泣くという名演技を披露したのだ。

店名の「ムグンファ」とは、韓国の国花「無窮花(むくげ)」のことだ。日本人にとっての桜のような存在で、ママの韓国料理へのプライドが込められている。掃除の行き届いた店内もママの志の高さの表れだ。料理も日本人の舌に合わせるのではなく、本場そのままの味を大切にしている。

夜の僕のおすすめ料理も書いておこう(どれも1,000~3,000円)。
① 前述の海鮮チヂミ・イカ炒め・ホルモン炒め
② サムギョプサル(豚バラの焼肉・二人前より) 
③ プルコギ鍋(牛のすき焼き風焼き肉)
④ ヤンニョムケジャン(生ワタリガニのトウガラシだれ漬け・要予約)
⑤ 豚肉野菜炒め
⑥ ブデチゲ(部隊鍋・朝鮮戦争以降に広まった大衆料理・ソーセージやランチョンミートのほかインスタントラーメンも入る)

ぜひ、生マッコリと一緒にどうぞ。宴会での利用もお薦めです。
そして何より、明るく、頑張り屋で、チャーミングなママに会いに来てください!あなたもたちどころにママの虜(とりこ)になってしまうことでしょう。

<本日のお会計>
半鶏湯(半ライス付き)1,000円也。

店舗情報店舗情報

ムグンファ
  • 【住所】東京都台東区浅草3-17-8
  • 【電話番号】03-3871-6441
  • 【営業時間】11:30~14:30、17:00~23:00
  • 【定休日】火曜
  • 【アクセス】つくばエクスプレス「浅草駅」より4分

文:神林桂一 写真:萬田康文

神林 桂一

神林 桂一 (都立高校国語教師)

教員生活42年。食べ歩き、飲み歩き歴は45年。10年前の都立一橋高校(馬喰町)時代から食のランキング・ミニコミを刊行(おもに職場で配布)。下町エリアを中心に酒場、定食屋、バー、和・洋・中・その他のエスニック料理店と守備範囲は広いが、なかでも“お母さん酒場”には並々ならぬ情熱を持つ。食にまつわる書籍、雑誌、テレビ番組、一般的なランキングサイトなど、リサーチにも余念がなく、自作のデータベースには行った店・約9,200軒を含む1万5,000軒。の店や食の情報が整理されている。毎日早朝6時、デッキや外付けHDD計4台に録りためた番組をチェックすることから1日が始まる。