飛んでいきたい、うまい旅
歴史薫る街にイチゴパラダイスがあった

歴史薫る街にイチゴパラダイスがあった

長崎と平戸。古くから異国の文化を取り入れて、いまもその面影を残す町並みに魅かれる人は多い。南蛮菓子などが有名だが、実はフルーツ王国、いや、天国なのだ。寒くなる時期、特においしくなるのがイチゴ。インパクト十分のスイーツを、マイルで現地に行って味わってきた。

ハイレベルな果物店、長崎にあり!

長崎は異国の香りあふれる街だ。食文化も独特で、中国をルーツにしたチャンポンや、カタカナ語が飛びかう南蛮料理が定着している。この町を通じて日本全国に広まったものも数多い。イチゴもそのひとつで、江戸時代末期、オランダ人によって長崎にもたらされた果物だといわれている。じつは、長崎はイチゴに縁のある場所だったのだ。
というわけで、旬の果実を求めて長崎へ!カフェメニューのレベルの高い果物店があるというウワサを聞きつけ、浦上天主堂の前にある「フルーツ いわなが」へ行ってきた。

迫力の「いちごたっぷりパフェ」2,100円(税込)。

おしゃれな店内に一歩足を踏み入れると、きれいに陳列された選りすぐりの果物がずらり。さまざまな品種の長崎県産イチゴも並んでいる。
「産地を巡り、全国のおいしい果物を知っている僕らですが、イチゴは長崎産がいちばんおいしいですね」
そう断言するのは、店主の戸﨑勇人さん。隣で奥さんの憲子さんが大きくうなずきながら、「とくに島原半島産は最高。なだらかな丘稜に畑があって、日当たりがよく水はけもいいので味がのるんです」という。
そんな自慢の果実をストレートに満喫できるカフェメニューが、「いちごたっぷりパフェ」だ。そのたっぷり感といったらハンパじゃない。イチゴの自家製寒天をベースに、“紅ほっぺ”や“貴婦人の微笑み”などの4品種をあふれんばかりに盛り込んだビジュアルは圧巻!

大人気の「フルーツサンド」900円(税込)。販売は土曜のみ。

旬の4月頃までイチゴをメインにした「フルーツサンド」もはずせない。憲子さんが「相性のいい果物を配置まで考え抜いて組み合わせた」というそれは、味も見た目もとびっきり。濃厚かつさっぱりとした熊本産生クリームとのバランスも絶妙で、まるでケーキのように味のデザインが緻密なのだ。

甘酸っぱくてふるふる食感の「いちご寒天」680円(税込)。
ギフト用の詰め合わせもオリジナリティが溢れている。
各種フルーツの寒天やジュースもあって悩ましい。
果物屋とカフェスペースが同居したオシャレな店。

戸﨑さん夫妻はともに、フルーツアートプロフェッショナルとフルーツアドバイザーの資格を取得し、とことん本気で誠実に果物と向き合っている。「パティシエよりも、果物の微妙な味の差を知っています」と語る2人の言葉は決しておおげさではない。それを、パフェとフルーツサンドが物語っていた。

店主
「フルーツ いわなが」戸﨑憲子さん、勇人さんご夫妻
戸﨑さん
旅の途中、果物でホッとひと息つきませんか?

これぞ平戸にふさわしい和と洋のコラボスイーツ

さらなる異国情緒といちごスイーツを求めて足をのばしたのは、日本最初の貿易港として栄えた平戸市。城下町でもある古都ならではの旅情をそそる石畳や坂道を散策しながら、目あての「平戸 蔦屋 本店」へと向かった。

老舗の菓子屋に10年前から仲間入りした名物。

平戸の商店街にある本店はなんとも風格のある建物。店主の松尾俊行さんに聞けば、「真偽のほどは定かではありませんが、徳川家康の外交顧問だった三浦按針が住んでいたという説のある屋敷なんですよ」とのこと。
蔦屋の創業は1502年。「江戸時代から平戸藩松浦家の御用菓子司をつとめています」と教えてくれた松尾さんは24代目の当主だというから、その歴史と伝統を感じずにはいられない。

甘く爽やかな香りがはじける「いちご大福」216円(税込)。

蔦屋には、カステラを卵黄にくぐらせて糖蜜で揚げた「カスドース」という名物がある。古くは殿様だけが食べられたお留め菓子で400年以上も前からつくり続けてきた逸品なので、それを食べない手はない。けれどもここで忘れてならないのが、1月から4月頃まで登場する季節限定の「いちご大福」だ。最高に熟した状態で摘んだ平戸産の“ゆめのか”を主役にした隠れた名品である。
朝採れのイチゴを、あっさりした白あん、甘さ控えめの求肥でくるんだ大福は見るからに上品。かぶりつけばジューシーな果汁がほとばしって、想像以上に豊かな香りが広がる。さらさらした口溶けの白あんと薄い求肥がイチゴの甘酸っぱさを引き立てて、その余韻がいつまでも続くのだからたまらない。小ぶりなサイズ感も手伝って、思わず2つ3つと手が伸びてしまう、罪なおいしさだった。

卵黄と砂糖の甘さが際立つ名菓「カスドース」。
ひと口サイズのかわいらしい饅頭いろいろ。
モダンな店内。奥の座敷で喫茶可。コーヒー200円(税込)。
三浦按針が住んでいた場所に建てた屋敷だという。

「お菓子はその土地のシンボルであるべき」がモットー。平戸にしかない風土色豊かな菓子づくりを心がけているという松尾さんが、どうして「いちご大福」を手がけようと思ったのか気になった。
「東京で和菓子の修業をして戻ったときに改めて気づいたんですよ。歴史上、この町は洋の文化をうまく和のものと融合してきたんだなと。ならば、洋菓子に欠かせない果実とあんこを合わせたいちご大福は、平戸にしっくりくると確信したからです」
そう聞いて、腑に落ちた。蔦屋のそれは大福ならではの野暮ったさがない。町の雰囲気に似てどこかロマンティックな味がしたのは、そういうことだったのだ。

店主
「平戸 蔦屋」店主・松尾俊行さん
松尾さん
平戸は歩きがいのある町。疲れたら座敷でお菓子とコーヒーをどうぞ。

長崎、平戸周辺のみどころを紹介!

川面に映る影を合わせた形から「眼鏡橋」と命名された、日本最古のアーチ型石橋。近くの商店街も楽しい。
世界平和の願いを込めてつくられた「平和公園」。周辺には貴重な被爆遺構が点在する。一度は訪れたい。
寺院の向こうに平戸ザビエル記念教会が。異国の文化が交じり合う平戸の歴史に想いを馳せられるスポット。

長崎県の果物といったら生産量日本一のビワ。それに比べるとイチゴの影は薄かったけれど、現地に行って食べて、そのおいしさに開眼!和と洋どちらのイチゴスイーツもレベルが高く、記憶に残る味わいだった。
いたるところに観光スポットがあるのも長崎県の魅力だろう。長崎市内には、平和について考えたくなる原爆遺構や、浦上天主堂をはじめ異国の文化に触れられる建物が点在。いにしえの海外交流の面影が残る平戸市もまた、キリスト教にまつわる遺産があちこちにあって、宗教心はなくとも祈りの心を感じずにはいられなかった。
雰囲気のいい坂道が多いのも長崎県ならでは。心地よく歩き疲れる旅も悪くない。

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この記事で紹介したお店

「フルーツ いわなが」
【住所】長崎県長崎市平和町9‐8
【電話番号】095‐844‐4311
【営業時間】9:00~19:00(カフェスペースは10:00~17:00)
【定休日】日曜

「平戸 蔦屋 本店」
【住所】長崎県平戸市木引田町431
【電話番号】0950‐23‐8000
【営業時間】9:00~19:00、日曜は9:00~18:00
【定休日】無休

文:安井洋子 写真:森本真哉