福井では”越前がに”と並ぶ、希少な蟹が水揚げされることをご存知ですか?ほとんど県外に出回ることのない、その蟹の名は”せいこがに”。「福井人は越前がによりもせいこがにを好む」と言われるほど旨いそうなのです。せいこがにを味わうため、福井で行われる蟹ツアーに参加します!
2019年、暦の上ではディセンバーになったばかりの吉日。福井観光コンベンションビューロー企画「集まれ『かに』好き!冬のごほうび福いっぱいツアー」に参加してきました!
JR福井駅前に集まったのは、30代~60代の幅広い年代の蟹ラヴァーたち。まだ朝の冷え込みがのこる7時30分に集合でしたが、一行は蟹尽くしの一日が始まることに興奮しているご様子。
まず訪れたのは、福井県随一の蟹水揚げ量で知られる越前漁港。日本で唯一、皇室に献上されているブランド蟹“越前がに”のことを学びます。
「11月6日に漁が解禁される越前がにの一番の魅力は、なんと言っても鮮度です!」
越前町漁業協同組合の小倉孝義さんは、きっぱり言い切ります。
越前がにを水揚げする漁場は、陸からわずか数10km、近いところでは数kmしか離れていません。しかも、越前漁港が臨む若狭湾は、冬の寒波が大いに影響を及ぼす海域。蟹が生息するには快適な環境で、餌である貝類も豊富に生息しています。
蟹たちにとって、越前の海はまさにユートピア。大きく、美しく、おいしい蟹に育たないわけがありません。
知識欲を満たした蟹ラヴァーたちが次に向かったのは、福井市内にある「越前かに成前」。福井市で寿司店を営んで58年になる「寿し吉田」三代目の田畑健太郎さんが創業した蟹卸専門店です。
一行を出迎えたのは、胸付前掛けがバッチリ似合った「成前」の菊川布美子さん。
快活な笑顔と大きな声で歓迎してくれます。
「みなさん!ようこそいらっしゃいました!ここでは、昼食に食べる“せいこがに”を自分たちの手で水槽からすくい揚げてもらいますよ」
ブクブクと泡立つ巨大な水槽からすくい揚げるのは、越前がにのメスであるせいこがに。オスよりもふた回りほど小さめなサイズですが、あなどるなかれ。福井人は越前がによりも、むしろせいこがにを好んで食べると言われるほど、美味な蟹なのです。
せいこがにが腹に抱えている外子と呼ばれる卵は、磯の香りがしてプチプチとした食感。甲羅の中にたっぷり詰まった蟹味噌と内子には、濃密な蟹のエキスが凝縮されています。身はぷりぷりとした歯ごたえと舌触りで、かぶりつけば思わず唸ってしまうこと間違いなし。
甲羅に黒い粒々が付着して体の大きなせいこがにが、卵をたくさん抱えていて旨いのだと菊川さんは教えてくれます。
「蟹を食うぞ!」と腕まくりをした面々が、柄の長い網を持って蟹すくいに挑戦します!
蟹すくいを体験し、待ちに待った昼食を食べるため「成前」の親分店でもある「寿し吉田」へ。
二階の広間に通された一行の前には、早速「寿し吉田」自慢のお造りが運ばれてきます。引き続き、アテンドしてくれる菊川さんの蟹話に耳を傾けながら、福井で獲れた海の幸に舌鼓を打ちます。
「寿し吉田」は、大自然が生み出した福井の味覚を県内外の多くの人に知ってもらう、という想いのもと、現店主健太郎さんの祖父が創業。
司馬遼太郎さん著『街道をゆく』(朝日新聞出版)では、福井に立ち寄った司馬さんが「寿し吉田」で旨い寿司を食って、大喜びするという描写で紹介されています。
寿司に負けず劣らず、蟹も「寿し吉田」の魅力のひとつです。
蟹をゆでる大釜は、100年以上前につくられた煉瓦で周りを組み上げた「成前」のもの。頑丈な煉瓦が釜を温める熱風を逃さず、温度をさらに上げるため、常にグラグラと煮立った湯で蟹をゆでられるそうです。
高温に保たれた湯で、蟹の身や味噌の表面を素早く煮固めて旨味を逃さないことで、一般的な鍋では再現できない蟹の味わいに仕上がります。
いよいよ自分たちの手ですくい揚げたせいこがにが、湯気を上げながらテーブルに並びます。
福井に住む人たちでも、ゆでたてのせいこがにを食べられる機会はほとんどないそうで、全員の目が輝きます。
外子を抱えている腹を剥がし、両足をバキッ!と中に折り込むと、蟹のエキスが滴り、味噌と真っ赤な内子が姿を見せました。
「まずは、外した足の付け根にかぶりつきましょう!濃密な蟹のエキスを思う存分味わうのがせいこがにの正しい嗜み方です!」
菊川さんの声は、蟹ラヴァーたちに届いているのか否か。
一行は、ゆでたてアツアツのせいこがにを夢中で食べ進めます。
福井の味覚を平らげて、腹いっぱい胸いっぱいでバスへ乗り込む一同。思う存分愉しんだことが表情から伝わってきます。
午後3時、内容盛り沢山だった冬のご褒美ツアーはついに幕を閉じます。
あぁ、福井にはこんなに旨いものがたくさんあるんだな。また、来年も福井へやってこよう。
そう想いながら、バスにゆられて帰路につくのでした。
文:河野大治朗 写真:出地瑠以