日頃、日本各地でさまざまな料理を食べ回っているdancyu編集長・植野が「令和元年に感動した五皿」を紹介します。
京都の和食はやはり凄い。二条河原町の料理屋「高倉」に伺い、心からそう思った。料亭、割烹、食堂、居酒屋など、京都にはさまざまな和食の店があり、それぞれが持ち味を発揮している。実際、割烹のお椀の味に唸ったり、居酒屋のお惣菜的つまみに感動したことが何度もある。そうした京都和食の凄さの行きつくところが、この店なのではないだろうか、「高倉」でそう思ったのだ。
二条河原町、河原町通りから路地を入ったところにポツンと灯る「高倉」の提灯。ひっそりと佇む店の扉を開けると、カウンターと座敷テーブルの物静かな空間がある。壁にはずらりとお品書き。これがいい。訪れたのは、秋の気配を感じる頃だったが、いわしの生姜煮、さごし(鰆)のきずしともずくのすのもの、小芋のから揚げ黒七味がけ、チャーシューの九条ねぎのせ……。さらに定番の品書帖をめくると、とんかつまである(そして、安い)。
「こんなものが食べたい」というものと「こんなものが食べたかったんだ」と気づかせてくれるものが、きちんと揃っている。心地よく過不足がない。そのどれもが、鮮やかで、さりげなく旨味が詰まっていて、しみじみとした器に美しく盛られていて、嬉しくなる。
なかでも、マスカットとみつ葉のおろし和え、にはやられた。品書き通り、三つの食材を和えただけのシンプルな料理だが、鮮烈な味わいに目が覚めた。和え方や味の決め方が感動的に素晴らしい。「加減」というのはこういうことだろう。
ただ、この店の良さは、料理ひとつずつにあるのではなく、こうした凄い料理を、普通に出しているところだろう。朝7時から仕込みをしているご夫婦や愛想よく料理を運ぶ娘さんの雰囲気も、さりげなく、心地よい。本当にいい店だ。
文:植野広生 写真:福森クニヒロ