山の音
未来はいま。

未来はいま。

いま当たり前になっていることは、いつから当たり前になったのだろう。そもそも、どうやって、当たり前になっていくのかな。10年前は当たり前じゃなかったのに、いつの間にか当たり前になっているものって、いっぱいありますよね。過去にSFで描かれた未来も、気がつけば現実になっている。そう考えたら、現代に描かれているSFも、いつの日か当たり前になるのかな。

星新一&真鍋博的世界のかなりの部分が実現しているんだな

パーソナル・コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、CDプレイヤー、spotify、日本プロサッカーリーグ、東京ディズニーランド、東京スカイツリー、東海道新幹線のぞみ号、カフェラテ、コンビニエンスストア、ハイブリッドカー、ポケモンGO、ボルダリング、タピオカミルクティー 、Suica、などなど。1963年生まれの自分が子どもの頃にはなかったものに囲まれて暮らしていることに気がついて吃驚することがありますね。
小学生の高学年の頃から読み始めた星新一の短編 SF小説の挿絵を真鍋博という画家が書いていて、自分の近未来のイメージの原型になっていたことを思い出したりもして、たとえば誰かとスカイプで打ち合わせをしていると、その星新一&真鍋博的世界のかなりの部分が実現しているんだな、と不思議な気持ちに包まれる。人間の想像力、創造力というものは凄いですね。

大森さんの写真

新幹線で東京・大阪間は自分の中では、ひかり号、3時間10分と刷り込まれていたのが、のぞみに乗ると2時間30分である。自分にとって遊園地といえば阪神パークで、そこには動物園が併設されていて、「甲子雄(かねお)」というヒョウの父親と、「園子(そのこ)」というライオンの母親から生まれたレオポンという動物がいたのだが、もういない。「レオ吉」と「ポン子」という名前の兄妹だった。哀愁、漂っていたなあ。東京ディズニーシーが開園したとき、浦安市民は招待されて、家族3人で出かけて行ったが、何となくリアルな水族館にBGMでディズニー映画のサントラが流れているような施設を想像していたら、ぜんぜん違いましたね。自分は昭和生まれなんだな、と苦笑したっけ。
中学生になるまで、自分の家ではコーヒーを飲ませてもらえず、中学になって初めて親の真似をして飲んだインスタントコーヒーでつくったアイスコーヒーはめちゃ美味かった。高校生になって喫茶店でカフェオレを飲んだときも、チョウ美味いと思ったな。そして、大人になって本物のエスプレッソマシンを使ってつくられたカフェラテは苦かった。銭湯上がりに飲むコーヒー牛乳はいまでも大好きだ。

大森さんの写真

おにぎりと砂糖の入っていない飲みものは家でつくるものだった

スポーツクラブのランニングマシンで走るのって面白いのですか?外を普通に走るのではダメなんですか?と知り合いに聞いてみると、心拍数などを管理してくれるし、各人にあったトレーニングメニューをアドヴァイザーが考えてくれたり、ぜんぜん違うらしいですね。自分にとっての室内でのスポーツって柔道、剣道、跳び箱、バスケットボール、バレーボール、そして卓球、以上で止まっている。
ゲームといえばスーパーマーケットの片隅にあったテレビゲーム、テニスみたいなやつ。コロッケを買い食いしながらよくやった。確か高校2年のときかな、初めてコンビニエンスストア、たぶんセブンイレブンだったと思うのだが、そこで買い物をした衝撃は忘れられない。おにぎり、とお茶である。おにぎりと砂糖の入っていない飲みものは家でつくるものだった。それをお金を出して買うのである。何かとんでもないことしているような気になった。
25歳の頃だったか、目黒の自分の部屋に妹が遊びに来て、ミネラルウォーターのボルビックが冷蔵庫に入っているのを見て「お兄ちゃん、水、買うてんの?」と驚愕されたこともあったな。いまでも、おにぎりだけはコンビニで買うときに少し躊躇する。

大森さんの写真

――明日につづく。

文・写真:大森克己

大森 克己

大森 克己 (写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。