山の音
やっぱり常夏じゃなかった。
大森さんの写真 大森さんの写真

やっぱり常夏じゃなかった。

日本には四季があるというけれど、最近はちょっと微妙。25度を超えると夏日のはずなのに、夏はずっと30度超え。秋の季語の台風が、夏の盛りにやってくる。夏野菜の多くも冬に食べることもできるしね。けれど、確実に夏は終わる。夏の次には、長いか短いかは別にして、しれっと秋がくる。半袖で過ごせる日も、あと少し。

いまもって台風の目に遭遇したことはない

近づいている台風のせいかときどき雨がぱらつき、しかし今日も蒸し暑くなりそうな8月15日。お盆である。敗戦の日でもある。毎年、甲子園の高校野球では正午に戦没者に対して黙祷しているけれど、近づいている台風のために野球も中止で合図のサイレンは聴こえない。飛行機や新幹線のキャンセルの知らせも相次いでいるが、被害が少ないといいですね。

大森さんの写真
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子供の頃は兵庫県の瀬戸内海に面した町に住んでいて、なかなか台風の直撃に備えるということは少なかったけれど、南方の島や都市で、雨戸を閉めて、玄関のドアの上から副え木を×印に打ちつけて雨風を防ぐというニュース映像をよく見かけた。その非常事態な感じが、カッコ良く思えたりもしていたなあ。
台風の目というものが存在することも不思議だった。中継のアナウンサーが九州や沖縄の島から「さきほどまで風速40mを越える暴風雨にさらされていましたが、台風の目に入ったのでしょうか、現在、風はぴたりと止んで青空が見えています」なんて報告する。
憧れ、というとちょっと語弊があるが、一度経験してみたいと、ずっと思っていた。いまもって台風の目に遭遇したことはない。

都会暮らしで身近に感じる自然のサイクル

大森さんの写真
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家の前の桜の葉は赤く色づいて落ち始めている。毎年、最初に感じる秋の気配である。かつて桜をテーマにした写真集をつくったことがあって、花の咲いている季節以外も桜の木をわりと注意して見ているのだが、春の花を咲かせるシーズン以外は、ほとんどの人はその木が桜であるということを気に留めていないのだろうな。
葉が落ちきった後、冬になり、固い蕾をたくわえている木も好きである。都会暮らしで身近に感じる自然のサイクル。夏の間に、すでに秋は潜んでいて、今日は明日となだらかに続いている。
そういえば、8月上旬に仕事で滞在した佐渡島でも鶯と蝉が同時に鳴いていた。

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――長月につづく。

文・写真:大森克己

大森 克己

大森 克己 (写真家)

1963年、兵庫県神戸市生まれ。1994年『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第3回写真新世紀優秀賞を受賞。近年は個展「sounds and things」(MEM/2014)、「when the memory leaves you」(MEM/2015)。「山の音」(テラススクエア/2018)を開催。東京都写真美術館「路上から世界を変えていく」(2013)、チューリッヒのMuseum Rietberg『GARDENS OF THE WORLD 』(2016)などのグループ展に参加。主な作品集に『サルサ・ガムテープ』(リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。YUKI『まばたき』、サニーデイ・サービス『the CITY』などのジャケット写真や『BRUTUS』『SWITCH』などのエディトリアルでも多くの撮影を行っている。