八宝茶の食材に決まりはありません。その日の気分によって、味と組み合わせを決めれば良いのです。食材の効能を知れば、自分の体調に合わせてあなただけの八宝茶がつくれます。出張中国茶屋「ノンチャ」の山田順子さんに八宝茶の食材のことを教わります。
八宝茶は滋養がつく食材を組み合わせた中国の健康茶。
「ノンチャ」の山田順子さんが淹れた八宝茶は、湯が紅色に染まり、ハーブと柑橘の爽やかな香りがした。具材の棗やクコの実を食べながら、滋味深い八宝茶を飲み干すと腹は満たされ、体は芯から温まる。暑さと冷房で重くなっていた体がなんだか軽くなったみたい。
「八宝茶を楽しむために必要なのは、自分の好きな器、体に良い食材と温かい湯だけ。むずかしく考えず、リラックスして味わいましょう」と山田さんは教えてくれた。
「八宝茶に使う食材の組み合わせは自由で良いんです。健康を考えて漢方を集めるのも良し。生姜や松の実を使って味わいを重視するのも良し。好みの食材に湯を注げば、あなただけの八宝茶ができ上がります」
山田さんは、20種類以上ある食材の中から黒い木の実を取ると、パラパラと器の中に落とした。
バラのつぼみや菊の花も入っている。湯を注ぐとぷかぷかと水面に咲くように浮き、優雅な佇まいになるという。
木の実や花、果実などが入った器に山田さんが湯を注ぐと、湯気が立ち上り、器の中が透明感のある青色に染まっていく。
器に注がれた湯は、目にも鮮やかな青色に染まっている。
と、思ったら、底の方からだんだんと湯の色がピンク色に変わっていく。
どういうこと?!
「おもしろいでしょう。黒クコの実のアントシアニンと、柑橘の酸が反応して色が変わるんです」
山田さんはそう言うと、いたずらっぽく笑った。
組み合わせる食材によって、八宝茶は紅くも染まるし青くも染まる。美しい見た目は、目からも美容効果を与えてくれると山田さんは考えている。
「ノンチャ」で出す八宝茶は、美容効果のある食材を集めて組み合わせているそうだ。
フリルのように湯に浮かぶ白木耳は、高級食材として知られる燕の巣と同じぐらい肌に潤いを与える効果がある。しかも、燕の巣に比べてリーズナブルだから女性はいっぱい食べるべき!と山田さんは太鼓判を押す。
馴染みのない食材もあるけど、集めるのは大変ではないのですか?
「いまの時代はインターネットがありますからね。通販などで簡単に手に入りますよ。私は、東京のアメ横にある中国食材店でまとめて買ったりもしています。店の人もお客さんも中国の人だから日本じゃないみたいで、行く度にワクワクするんですよ」
金柑糖や干し棗などの日持ちする食材をストックしておくと良いかもしれない。食材が足りなくなったら新しい食材を買い足してゆけば、八宝茶の楽しみ方は広がりそうだ。
山田さんは、三杯目の八宝茶に湯を注いで差し出した。
「湯を染めない透明な八宝茶もつくってみました。変わった味がするので飲んでみてください」
器の中には、輪切りのレモンや金柑、胡椒のようなものも浮いている。丸い形の具材が多く、美しい。ジャスミンのようなフローラルな香りを感じさせ、茶の雰囲気を漂わせている。
差し出された八宝茶を飲んでみる。
うわ!とてつもなく苦い!!
「苦丁茶という茶葉を入れています。目が覚めるような苦味でしょう。体に良い効能をたくさん持っている茶葉なんですよ。綺麗に飲み干せば、病気のもとを体から追い出してくれるはずです」
良薬は口に苦し。覚悟してさらにグイッと飲んでみる。しっかり味わってみると、苦味の奥に柔らかい甘味と鼻に抜ける爽やかな香りを感じた。
「だんだん苦味に慣れきますよね。冬瓜糖やジャスミン茶を入れているので、飲みづらい苦丁茶の香りを和らげてくれるんです」
透明な八宝茶を飲み干す頃には、強烈な苦味が好ましく感じるようにもなった。
苦丁茶はひとつ入れるだけで十分だけど、それぞれの食材は目分量で大丈夫なんだそう。何度か淹れているうちに自分好みの量がわかってくるはずだ。
「八宝茶は栄養価があるし食べ応えもあるから、食事代わりにも良いと思います。私はひとりで楽しむだけでなく、友人が来たときは小さい茶器を用意して、みんなでシェアして飲んだりもするんです」
――つづく。
文:河野大治朗 写真:萬田康文