八宝茶のすゝめ。
八宝茶は自由。

八宝茶は自由。

八宝茶の食材に決まりはありません。その日の気分によって、味と組み合わせを決めれば良いのです。食材の効能を知れば、自分の体調に合わせてあなただけの八宝茶がつくれます。出張中国茶屋「ノンチャ」の山田順子さんに八宝茶の食材のことを教わります。

組み合わせは自由自在。あなただけの八宝茶。

八宝茶
八宝茶に柑橘類や松の実をたっぷり入れればスープのような食べ応えになります。胃が疲れていると感じたときは、ランチの代わりにいかが?

八宝茶は滋養がつく食材を組み合わせた中国の健康茶。
「ノンチャ」の山田順子さんが淹れた八宝茶は、湯が紅色に染まり、ハーブと柑橘の爽やかな香りがした。具材の棗やクコの実を食べながら、滋味深い八宝茶を飲み干すと腹は満たされ、体は芯から温まる。暑さと冷房で重くなっていた体がなんだか軽くなったみたい。
「八宝茶を楽しむために必要なのは、自分の好きな器、体に良い食材と温かい湯だけ。むずかしく考えず、リラックスして味わいましょう」と山田さんは教えてくれた。

「ノンチャ」の山田順子さん
「ノンチャ」の山田順子さんは旅する茶人。決まった店は持たず、インターネットや知り合いから依頼された場所へ出張して期間限定の茶屋を開いている。

「八宝茶に使う食材の組み合わせは自由で良いんです。健康を考えて漢方を集めるのも良し。生姜や松の実を使って味わいを重視するのも良し。好みの食材に湯を注げば、あなただけの八宝茶ができ上がります」
山田さんは、20種類以上ある食材の中から黒い木の実を取ると、パラパラと器の中に落とした。
バラのつぼみや菊の花も入っている。湯を注ぐとぷかぷかと水面に咲くように浮き、優雅な佇まいになるという。
木の実や花、果実などが入った器に山田さんが湯を注ぐと、湯気が立ち上り、器の中が透明感のある青色に染まっていく。

青の八宝茶
青の八宝茶は、アントシアニンが豊富に含まれる黒クコの実や、目と喉の疲れを癒す菊の花を加え、弱った体を元気にしてくれる。
黒クコの実
黒クコの実。アントシアニンがブルーベリーの20倍入っている。視力改善、目の疲労などに良い。
バラ
バラのつぼみ。ビタミンCが豊富で若返りのハーブとして知られている。美肌やリラックスの効果がある。体を温め、鬱血の解消を促し、女性ホルモンの働きを整える。
松の実
松の実。油分を多く含み、美肌効果があり、食感と味にアクセントがでる。
菊の花
菊の花。目と喉の疲れを癒し、体温を下げる効果があるので、暑い夏にはピッタリの食材。
棗
干し棗。鎮痛や鎮静、強壮、補血などの効果がある。山田さんも毎日食べているそう。
金柑糖
金柑糖。喉の痛みを感じるときのつよい味方。湯を注ぐと爽やかな香りが広がる。
氷砂糖
氷砂糖。八宝茶に甘味を加えるときの定番具材。

器に注がれた湯は、目にも鮮やかな青色に染まっている。
と、思ったら、底の方からだんだんと湯の色がピンク色に変わっていく。
どういうこと?!
「おもしろいでしょう。黒クコの実のアントシアニンと、柑橘の酸が反応して色が変わるんです」
山田さんはそう言うと、いたずらっぽく笑った。

組み合わせ
食材の効能や味わいを知ると、自分の体調に合わせて組み合わせを変えることができる。

組み合わせる食材によって、八宝茶は紅くも染まるし青くも染まる。美しい見た目は、目からも美容効果を与えてくれると山田さんは考えている。
「ノンチャ」で出す八宝茶は、美容効果のある食材を集めて組み合わせているそうだ。
フリルのように湯に浮かぶ白木耳は、高級食材として知られる燕の巣と同じぐらい肌に潤いを与える効果がある。しかも、燕の巣に比べてリーズナブルだから女性はいっぱい食べるべき!と山田さんは太鼓判を押す。

八宝茶
山田さんが10年前からつくり続けている「ノンチャ」オリジナルの八宝茶。食べることができるバラやハイビスカス、白木耳など美容効果のある具材を多く加えている。
バラの花びら
バラの花びら。つぼみと同じくビタミンCを多く含み、美肌とリラックスの効果がある。
ハイビスカス
ハイビスカス。美肌効果と代謝促進による疲労回復に優れたハーブ。湯を紅く染め、見た目も華やかにする。目からも美容効果を感じれること請け合い。
白木耳
白木耳。肌に潤いを与える美肌効果や老化防止といった効果がある。湯を注ぐと、ひだが綺麗に開く。
クコの実
クコの実。肌の老化防止、目や内蔵の疲れの改善といった効能がある。杏仁豆腐のトッピングなどによく使われている。
生姜糖
生姜糖。生姜に含まれる辛味成分ジンゲロンとショウガオールには発汗作用があるので、体を温める効果がある。昔から生薬として利用されることが多かった。
グリーンレーズン
グリーンレーズン。鉄分、カリウム、食物繊維を多く含む。黒いレーズンとは違って爽やかな旨味がある。
棗
干し棗。鎮痛や鎮静、強壮、補血などの効果がある。山田さんも毎日食べているそうだ。
金柑糖
金柑糖。喉の痛みを感じるときのつよい味方。湯を注ぐと爽やかな香りが広がる。

自分好みの食材で世界は広がる。

馴染みのない食材もあるけど、集めるのは大変ではないのですか?
「いまの時代はインターネットがありますからね。通販などで簡単に手に入りますよ。私は、東京のアメ横にある中国食材店でまとめて買ったりもしています。店の人もお客さんも中国の人だから日本じゃないみたいで、行く度にワクワクするんですよ」
金柑糖や干し棗などの日持ちする食材をストックしておくと良いかもしれない。食材が足りなくなったら新しい食材を買い足してゆけば、八宝茶の楽しみ方は広がりそうだ。

八宝茶
八宝茶は茶碗や急須、ボウルなど自分の好きな器で楽しめる。

山田さんは、三杯目の八宝茶に湯を注いで差し出した。
「湯を染めない透明な八宝茶もつくってみました。変わった味がするので飲んでみてください」
器の中には、輪切りのレモンや金柑、胡椒のようなものも浮いている。丸い形の具材が多く、美しい。ジャスミンのようなフローラルな香りを感じさせ、茶の雰囲気を漂わせている。

八宝茶
リラックス効果があり、生薬としても使われる茶葉を加えた八宝茶。夏バテしているときに飲むべき組み合わせだそうだ。
干し金柑
ドライレモン。すっきりした酸味があり、ビタミンが豊富。綺麗な輪切りなので、ぷかぷかと浮く見た目がかわいい。
龍眼
龍眼。殻を割って、中のライチのような果実を入れる。滋養作用が強く、免疫力を高める効能がある。
冬瓜糖
冬瓜糖。体の熱を取り除く効能がある。冬瓜は、中国で夏のスープによく使われる。
苦丁茶
苦丁茶。モチノキ科の植物の茶葉。ノンカフェインで薬効が高く、美肌や解熱効果など効能の宝庫。ひとつ入れるだけで、とても苦いので注意。
馬告
馬告。台湾原住民が好んで使うスパイス。胡椒、山椒のような味わいで、香りはレモンのように爽やか。体のむくみ、痛みを解消する効能がある。
ジャスミン茶
ジャスミン茶。茶葉なのでカフェインが含まれる。ジャスミンの香りには自律神経を整えるリラックス効能がある。
山査子
山査子。バラ科の果実を乾燥させたもの。食物繊維やビタミン、ミネラルを多く含み、胃の消化を助ける。甘酸っぱい味わい。
松の実
松の実。油分を多く含み、美肌効果がある。食感と味にアクセントがでる。
干し金柑
干し金柑。金柑糖に比べて甘味はないが、見た目の華やかさと穏やかな柑橘の香りがでる。

差し出された八宝茶を飲んでみる。
うわ!とてつもなく苦い!!
「苦丁茶という茶葉を入れています。目が覚めるような苦味でしょう。体に良い効能をたくさん持っている茶葉なんですよ。綺麗に飲み干せば、病気のもとを体から追い出してくれるはずです」
良薬は口に苦し。覚悟してさらにグイッと飲んでみる。しっかり味わってみると、苦味の奥に柔らかい甘味と鼻に抜ける爽やかな香りを感じた。
「だんだん苦味に慣れきますよね。冬瓜糖やジャスミン茶を入れているので、飲みづらい苦丁茶の香りを和らげてくれるんです」
透明な八宝茶を飲み干す頃には、強烈な苦味が好ましく感じるようにもなった。
苦丁茶はひとつ入れるだけで十分だけど、それぞれの食材は目分量で大丈夫なんだそう。何度か淹れているうちに自分好みの量がわかってくるはずだ。

「八宝茶は栄養価があるし食べ応えもあるから、食事代わりにも良いと思います。私はひとりで楽しむだけでなく、友人が来たときは小さい茶器を用意して、みんなでシェアして飲んだりもするんです」

――つづく。

文:河野大治朗 写真:萬田康文

河野 大治朗

河野 大治朗 (編集者)

1991年生まれ。茨城県出身。2018年「塚田農場 浅草店」店長から、dancyuのweb編集部で働きはじめる。自分の好奇心を大切に、気になることはやってみる。一人前の編集者になるため修行中。特技は羊の解体。趣味はきのこ狩り。