勝沼には「ビストロ・ミル・プランタン」がある。
ビストロとワイナリーのおいしい関係。

ビストロとワイナリーのおいしい関係。

数多のワイナリーに囲まれ、勝沼のぶどう畑を見渡せる高台に建つ「ビストロ・ミル・プランタン」。「銀座レカン」の元チーフソムリエが、勝沼に移住して開いた一軒家のビストロである。名ソムリエは考える。銀座ではできなかったことが山梨ではできる、と。

ワイナリーがあって、ビストロがある。

ここに一枚の地図がある。
描かれているのは、笛吹市から放光寺までの勝沼周辺地域だ。地図の至るところに描かれているワインのボトルは、ワイナリーを示している。ボトルが密集する勝沼のほぼ中央にあるのが、三角屋根の「ビストロ・ミル・プランタン」。実はこれ、オーナーの五味𠀋美さんが考案した「ビストロ・ミル・プランタン」オリジナルの勝沼ワイナリーマップなのだ。

店ではランチョンマットとして各テープルに提供されているが、持ち帰ってワイナリー巡りのマップに使うのにはぴったり。最近では外国人観光客が増えてきたこともあって、英語版も作成したという。
「情報をまとめたり、何かを計画したり、ということがもとから好きなんです。お客様を集めてバスツアーを開催することもあるんですけど、このランチョンマットは、その延長のようなものですね。勝沼周辺の観光に役立ててほしくて、自分でイラストのアイディアを出して、デザイナーさんにつくってもらったんです」

テーブル
ランチョンマットにしておくのは、もったいないというほどのスグレものの勝沼ワイナリーマップは、持ち帰ってワイナリー巡りに役立てたい。

「ビストロ・ミル・プランタン」が勝沼の中心にいるのは、物理的な条件だけではない。勝沼に点在する無数のワイナリーと観光客をつなぐ、“中心的存在”にもなっているのだ。近隣のワイナリーのワインを飲みながら食事ができる、アンテナショップのような役割も果たしている。
たとえば、勝沼を代表する老舗ワイナリー「くらむぼんワイン」を訪ねると、オーナーの野沢たかひこさんはこんな案内をしてくれる。
「ワイナリー併設のレストランはないのですが、10分くらい歩くと“ミル・プランタン”さんがありますから、そこで、うちのワインとお料理のマリアージュを堪能していただけます」
教えられた通りに、くらむぼんワインを出て、ぶどう畑や民家を抜けながら南進していくと、まもなく丘の上に白い筒のような建物が見えてくる。ワイナリーで軽くテイスティングしてきた酔いも覚め、ちょうどお腹もすいてくる程よい距離だ。

甲州富士桜ローストポーク
「くらむぼんワイン」の“くらむぼん樽甲州”と、ランチセットで供される“甲州富士桜ローストポーク”。甲州100%の白ワインは柑橘のフレッシュな風味やオーク樽で醗酵させた樽香が豊かで、ほんのり甘い甲州富士桜ポークにぴったり。

「ビストロ・ミル・プランタン」から徒歩10分圏内にあるワイナリーは全部で10軒。ワイナリー巡りに訪れた観光客にとっては、昼食や休憩をとるのにちょうどいい位置にある。ワインの造り手にとっては、ワイナリー併設のレストランのような機能を果たす。さらに、ワイナリーのオーナーたちが安心して観光客に紹介できるのは、五味さんがベテランのソムリエであり、絶大なる信頼を置いているからだ。

五味𠀋美さん
「銀座レカン」ソムリエ時代の五味𠀋美さん。メディアに何度も取り上げられ、気鋭のソムリエとして業界で名を馳せた。
五味𠀋美さん
勝沼にやって来た五味さん。念願の移住を成し遂げ、新たなソムリエ人生をスタート。近隣のワイナリーのことなど、気さくに教えてくれる頼れる存在。

勝沼で生きるということ。

「ビストロ・ミル・プランタン」では、いまや甲州市内の30以上のワイナリーのワインを揃えるようになった。そのほかには長野県や海外などのワインもストックし、グラスワインだけでも常時10種類近くの用意がある。
「オープンしたばかりの頃は、日本ワインの種類を豊富に展開させるつもりで、北海道ワインなどもおいていたんです。でも、お客様の反応を見ていると、せっかく山梨に来ているんだから県内産のワインを飲んで帰りたい、という方が多かった。それもそうだなと思って、近隣ワイナリーを中心に、山梨のものを揃えるようにしたんです」

ワイン
ワイン選びに迷ったら、自分の好みや、その日の気分を五味さんに伝えてみよう。未知なるワインとの出会いが待っている。

五味さんにとって忘れがたい出来事がある。
世界的に有名なボルドーワインの「シャトー・マルゴー」総支配人であるポール・ポンタリエさんが、生前に勝沼を訪れた際、「ビストロ・ミル・プランタン」を気に入ってくれて、2日続けて訪れてくれたことだ。
「すごく落ち着く雰囲気だ。そう言ってもらえました。ボルドーワインの頂点に立つワインを造る人が、勝沼に注目してくれていることも嬉しかったですし、私の店を評価してくれたことに感動しました」

シャトー・マルゴーのワインの木箱
偶然にも「シャトー・マルゴー」のワインの木箱をメニューのカバーにしていた。ポンタリエさんの来店に、五味さんは感極まり、メニューにサインを入れてもらった。

ソムリエは銀座を離れて勝沼で何を始めたのか。それは、ワインを造っている人や畑と、ワインを飲む人を繋ぐこと。
「ソムリエ」という言葉の語源には「酒倉の番人」という意味もあるという。かつて銀座の名店「銀座レカン」のトップソムリエと活躍した五味さんは、いま、勝沼のワイナリーの番人となり、観光客に勝沼ワインの魅力を伝えるために、勝沼を拠点に東奔西走している。

ビストロ・ミル・プランタン
三角屋根が目印の「ビストロ・ミル・プランタン」。土地に根ざしたビストロという、新しいワインとビストロのあり方が、ここにある。

店舗情報店舗情報

ビストロ・ミル・プランタン
  • 【住所】山梨県甲州市勝沼町下岩崎2097‐1
  • 【電話番号】0553‐39‐8245
  • 【営業時間】11:30~14:30(L.0.)、17:30~21:00(L.O.)
  • 【定休日】水曜
  • 【アクセス】JR「勝沼ぶどう郷駅」から車で5分

文:吉田彩乃 写真:遠藤素子

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吉田 彩乃(ライター)

1986年、東京生まれ。食と酒まわりにいる「人」が好き。よく行くのは、和洋中を問わず気楽な雰囲気の店。本当はレシピや酒場の書物を増やしたいが、最近は某誌の企画でセミ・ザザムシ・ハチノコを食べ、思いがけず「昆虫食」の世界に足を踏み入れてしまった。

勝沼には「ビストロ・ミル・プランタン」がある。 勝沼には「ビストロ・ミル・プランタン」がある。

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